当該研究ではシリコンスポンジを用いて検討を行った。すべての測定で外耳道に80dBの音響負荷を行い、下記の手順でレーザードップラー振動測定装置を用いてアブミ骨の振動を測定した。①正常の耳小骨連鎖の状態で音響負荷時のアブミ骨振動を測定。②キヌタ骨を除去後、除去したキヌタ骨で再建し測定。③厚さ0.15mmのスライドガラスをツチ骨とキヌタ骨の間に1枚から3枚挿入し、各々の条件で振動を測定。④厚さ0.6、1、2mmのシリコンスポンジをキヌタ骨除去部位に挿入し各々の条件で測定を行った。⑤シリコンスポンジ(厚さは0.6㎜と1㎜を使用)とキヌタ骨の間に厚さ0.15mmのスライドガラスを1枚から3枚挿入し各々の条件で測定。検討方法は①で測定した正常耳小骨の振動をベースとした利得を比較した。キヌタ骨を使った再建では、利得は各周波数で約―1dB程度であったが、スライドガラスを1枚挿入すると各周波数で約8dB程度、スライドガラス2枚挿入すると約10dB、スライドガラス3枚挿入すると約15dB低下していた。一方シリコンスポンジを用いた再建ではその厚さに関係なく2kHz以上の高音域でアブミ骨振動は低下し、800Hz以下の低音域ではその厚さが増すにつれアブミ骨振動は低下した。低音域で最もアブミ骨が振動したのは0.6㎜の厚さのシリコンスポンジであった。続いて鼓膜陥凹を想定し、再建材料の厚さ0.6㎜のシリコンスポンジで再建した場合、スライドガラスを3枚挿入しても低音では最大で11.7dBしか低下しなかった。これまで伝音再建術には硬性材料が用いられてきたが、当該研究でも軟性材料が使用できる可能性が確認された。今後、軟性材料を伝音再建術に用いるためには細かな条件設定を決定する必要があり、術後変化に対応し得る人工耳小骨を開発するためにヒト側頭骨を用いたさらなる検討が望まれる。
|