研究課題/領域番号 |
24659750
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
氷見 徹夫 札幌医科大学, 医学部, 教授 (90181114)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | RSウイルス / 鼻粘膜 / 上皮細胞 / ウイルス複製 / タイト結合 / インターフェロン |
研究概要 |
呼吸器ウイルス炎症での鼻粘膜の役割を明らかにするためには,ウイルス感染で起こる鼻粘膜上皮細胞の反応について検討する必要である.その中でも,ウイルスの種特異性と細胞指向性の理解と宿主免疫応答のうち,自然免疫応答と抗ウイルス反応の鼻粘膜での特徴を解明することが重要である.具体的には,正常なヒト鼻粘膜上皮細胞を用いた実験系を用いてウイルスへの免疫応答の特徴を検討した. 本年度の研究成果として,NF-κB阻害剤の一つであるクルクミンを用いて,ヒト鼻粘膜上皮細胞におけるNF-κB経路を介したRSVの複製阻害およびタイト結合の発現調節機構の解析を行った.結果,正常鼻粘膜上皮細胞において,クルクミンの処置により,明らかなRSV複製の抑制およびバリア機能を有すタイト結合分子のさらなる増加が認められた.また,クルクミンの処置によりNF-κBの活性低下,炎症性物質の抑制も見られた.さらに,eIF2αのリン酸化を介したウイルスタンパクの翻訳調節機能の関与も示唆された.また同様の作用を持つ物質としてフムロンがウイルスの複製抑制作用を持つことがわかった.ヒト鼻粘膜上皮細胞を用いたRSV感染後のNF-κBシグナル伝達機構の解明は,RSVの複製抑制および防御機構であるバリア機能の亢進の面からみて,予防および治療薬の開発に重要と考えられた. RSV感染で誘導される細菌の付着は,気道上皮細胞のPAF受容体と細菌菌体フォスフォコリンの相互作用と考えられた.ホスホマイシン,クラリスロマイシンは抗菌作用と免疫調節作用の両者を示し,ウイルス感染後の二次細菌感染の原因となる細菌の付着を抑制した.このことから,ホスホマイシンとクラリスロマイシンを用いることで,RSV感染症のときにおこる二次細菌感染を予防することができるかもしれない.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
鼻粘膜上皮からのインターフェロンの産生についての特徴を明らかにした.さらに,細菌の二次感染との関連についても解析を終了した.この点に関しては達成度は十分であるが,最も重要な課題である個体差についての解析が進んでいない. これらのインターフェロン産生について,III型インターフェロンの重要性は認識できたが,SNIPの解析がまだ進んでいない.この理由として,小児での検体の採取に関する倫理的な配慮から,十分な症例数が得られていないことが最も大きな要因である.このため,他のウイルスにも焦点を当てて,成人症例での検討を進めることにする. またアレルギーとの関連についての検討では,気道上皮(鼻粘膜上皮)からの自然免疫系の異常からインターフェロン産生低下,すなわち①IFN-β,-λの産生低下が起こり上皮細胞でのウイルス感染の制御が困難となる.これに伴い上皮形態が変化しアレルギー性炎症が増悪する,また,獲得免疫系では②IFN-γの産生が低下しており,アレルギー感受性が増悪しTh2系の免疫反応が惹起されアレルギー性炎症が増悪するためと考えられる.このメカニズムについての鼻粘膜上皮での解析検討が少し遅れている.しかし,この点については,種々の刺激によるインターフェロンの鼻粘膜上皮からの産生メカニズムを同時に評価していくことで,目標とするメカニズム解析の突破口が開けると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
呼吸器ウイルス炎症での鼻粘膜の役割として今回明らかにした点は以下のものである. 1)抗ウイルス作用の中心であるインターフェロンについて2)ウイルスのパターン認識受容体を介した反応の解析3)ウイルスの細胞指向性,侵入,複製,出芽のメカニズム解析4)ウイルス感染上皮細胞のバリア機能の変化5)ウイルス感染がもたらす二次細菌感染のメカニズム解析である. 重要な課題の一つである,インターフェロン産生の個体差の検討については,症例数が十分でないため,具体的な検討の開始が遅れている.このため,再度遺伝子解析のターゲットを再検討して,関連の深いものから優先的に進めることにしたいと考えている.ウイルスの複製や出芽に関しては引き続き他のウイルスについても検討を進めることとしたい.さらに,ウイルス感染の抑制効果のあるものの探索も進んできたため,この分野の検討も同時に進行させていく.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度での研究費もおもに消耗品を主体として使用を計画している.特に,培養系の維持や新たな鼻粘膜上皮の採取維持などには,培養液や上皮分離のための酵素系の薬剤などが多量に必要となる.ウイルスの増殖や,組織学的,電子顕微鏡学的試薬が必要である. 特に,新たなウイルスの検索と,遺伝子解析には外注などに要する費用も発生するため,消耗品のみならずこのような委託検査について研究費を使用をすることも考慮している.
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