研究課題
網膜は再生が極めて困難な神経組織であり、一度網膜が障害されると視力回復は望めない。本研究では失明に至る重篤な網膜疾患に対し、歯髄由来体性幹細胞移植による新たな網膜神経保護もしくは再生治療を提案することを目的としている。平成24年度は歯髄組織、細胞の未分化マーカーの評価と正常ラット眼に対する移植実験を行った。歯髄組織からシングルセルサスペンジョンを作製して浮遊培養したところ、一般的に神経幹細胞で発現量の多い遺伝子(Musashi、CD133、CD105など)を発現する球状の細胞塊を得た。次に神経幹細胞で発現量が多い表面マーカーに着目して、歯髄組織に対する免疫染色でタンパク質の発現と局在を確認した後、FACSで神経幹細胞表面マーカー陽性細胞を濃縮した細胞群の浮遊培養を行ったところ、FACSによる濃縮を行わなかったものと比較して細胞塊の形成率が飛躍的に上昇することを確認した。一方で、ラット眼に対する移植実験として、正常ラット眼ガラス体内に蛍光染色した歯髄由来細胞を移植したところ、網膜に一部生着、伸展して樹状様の形態を呈する蛍光陽性細胞を確認した。これらの結果を踏まえて、次年度予定していた網膜組織障害モデルに対する移植実験を前倒して検討を開始した。簡易評価として障害網膜で発現する遺伝子に対する細胞移植の影響を検討したところ、正常な網膜神経節細胞で発現量の高いBrn3a,Brn3bの発現量が非細胞移植群よりも細胞移植群の方が有意に高いことを確認した。また、別途他の網膜障害モデルに関する基礎研究も推進し、翌年本格的に開始する移植実験の準備を行った。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画通りに研究を遂行し、さらに次年度計画していた網膜障害モデル動物での移植実験を一部前倒して行い、現段階では良好な結果を得ている。重要な治療法に結びつく可能性が生まれてきているため現在までの達成度を当初の計画以上に進展しているとした。
前倒して開始した網膜障害モデルに対する移植試験で、現段階では良好な結果を得ている。まずこの系に集中して結果の再現性の検証、経時変化や組織学的な解析等の詳細評価を行う。次に計画通りに様々な網膜障害モデルや移植方法を検討する中で、初年度に検討した培養方法を用いて細胞を培養し、移植の効果を検証する。
初年度に計画していた学会参加や会議を行わなかったことと、予備検討に使用する予定であった消耗品の量を効果的に押さえることができたために生じた未使用額である。次年度に遺伝子発現定量解析のためにより多くのプライマーを購入するとともに、マイクロアレイなどの網羅的手法を導入することを計画している。また手術器具の老朽化に伴う不具合が生じているため、それらの新調を行う。
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http://www.oph.med.tohoku.ac.jp