線維柱帯切除術は、緑内障手術のゴールドスタンダードとして確立されているが、この手術の問題点として、過去の眼科手術による結膜瘢痕の存在によって、その手術成績が大きく損なわれる。そこで、過去の眼科手術の既往歴のある症例に対して、線維柱帯切除術をおこない、その手術成績を改善する治療を確立する研究をおこなった。第1に、結膜の再生実験においては、ウサギ眼に結膜手術瘢痕を作成し、その後、従来のトラベクレクトミーをおこなった群と、トラベクレクトミーをおこなった後に、再生した結膜上皮シートを移植してブレブを作成した群とを比較したところ、統計学的有意に、再生した結膜上皮シートを移植した群のほうがブレブの維持されていた眼が多い結果となった。移植された結膜上皮細胞は、抗ZO-1抗体が陽性で、上皮細胞としての性質を有することが示された。 第2に、臨床研究で、すでに手術を受けた症例に対して、トラベクレクトミーをおこなう際に、そのブレブ作成の結膜切開デザインによって手術成績が異なるかを多施設コホート研究で検討した。手術既往歴のない症例では、結膜切開デザインによって手術成績には差はみとめなかったが、手術既往眼では、輪部基底結膜切開トラベクレクトミーのほうが、円蓋部基底結膜切開トラベクレクトミーよりも、有意に成績がよいことが示された(Sci Rep 2015)。これによって結膜瘢痕のある難治性の症例に対する治療選択に関する臨床エビデンスを示すことができた。
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