研究概要 |
人間の視覚は高次収差など光学系の蒙像だけではなく、中枢神経系の補償(neural compensation)も関与しており、同じ量の蒙像でも高次収差のパターンが変化することで、見え方に大きな変化がおこる。神経補償を含めて高次収差の視覚への影響をとらえることで、近視進行抑制の治療戦略への足掛かりをつかみたい。 波面光学による高次収差と近視進行に直接的な関係は解明されていないが、近視進行については網膜への蒙像が眼軸延長の刺激となり、いわゆる眼軸長の視覚による制御は多くのエビデンスがある。我々は小学生集団(100人)を4年にわたり経時的に高次収差と眼軸長測定を行い、単に高次収差の量が原因となって眼軸が延長するのではないことを観察した。 今年度、小学校の1,2,3学年生に視力検査、屈折検査、眼軸検査、高次収差検査を行った。これらのデータをもとに、今後近視の進行を経時的に観察することで、神経補償と近視化のかかわりを解析することが可能と考えられる。 また、以前に測定した小学校高学年のデータとも合わせて解析することで、眼軸や高次収差の小学生における正常値が明らかになった。今後この正常から逸脱する群についての長期的な経過観察を行う。 神経補償の生理作用を明らかにすることは非常に意義がある。低次収差、高次収差、神経補償の3つを合わせて検討することで、視覚の新しい機能制御理論を構築することが可能になる。神経補償とはいわば非調節性の調節機能を含んでいる。近視進行抑制のみならず、老視治療への臨床応用の基礎的データとなる。
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