研究課題/領域番号 |
24659769
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研究機関 | 聖マリアンナ医科大学 |
研究代表者 |
上田 裕司 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 講師 (00223470)
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キーワード | iPS細胞 / ロドプシン / 桿体視細胞 / 錐体視細胞 / 網膜前駆細胞 |
研究概要 |
我々はiPS細胞に眼発生に関わる重要な転写因子である pax6の遺伝子導入を行い、その後G418選択を行いさらにクローニングを行うことで nestin, musashi1, six3, 網膜前駆細胞の分化に関わる転写因子 chx10を発現する網膜神経前駆細胞株を多数、樹立できた(Suzuki N et al. Neuroscience Letters)。 我々がiPS細胞から樹立した網膜前駆細胞は全ての細胞株がβIII tubulin陽性、neurofilament M鎖陽性の細胞で、視細胞前駆細胞マーカーである CD73を非刺激状態で 50%程度、Rhodopsin蛋白を中等量発現する。 この細胞はケモカイン stromal cell-derived factor 1(SDF1、CXCL12)に反応して強い増殖を示し 90%以上が CD73陽性の視細胞前駆細胞となる。この株化視細胞前駆細胞ではSDF1/CXCR4経路の拮抗剤である AMD3100存在下では CD73陽性細胞の出現は抑制され、その後の分化は見られない。この細胞はmonocyte chemoattractant protein1 (MCP1、CCL2)に反応して緑、青、赤の3種のOpsinを発現する。SDF1存在下での培養終了時 (mature)には細胞質は楕円形から長方形となり Rhodopsinは核から離れた細胞質全体に存在する。この成績はケモカインが網膜前駆細胞の分化調節に重要に関わることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
順調に進行してほぼ当初の研究計画の目的は達成できている。本年度は論文執筆とそのための追加実験、補充実験を行う。 唯一の問題点は、視細胞前駆細胞の増殖速度が遅いため、ひとつひとつの実験を行うのに十分な細胞数を確保するために時間がかかる事と、そのため時間を追ったウエスタンブロット実験が行えていないことである。そこでウエスタンブロット実験を免疫細胞染色法に置き換えて実験を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
我々の樹立した網膜前駆細胞は極めて高純度に精製することが容易に可能である。培養操作のみで 90-95%程度、さらにソーティングすることでほぼ純粋な CD73陽性の視細胞・視細胞前駆細胞を回収できる。視細胞前駆細胞株を温度感応性ゲルの上でコンフルエントな状態になるまで増殖させると、視細胞・視細胞前駆細胞を一枚のシートとしてはがすことが可能である。酵素処理を受けていないため細胞間相互作用に関わる軸索とシナプス関連タンパク質をそのまま保持している。即ち、視細胞を含む神経細胞に必須のネットワーク構造・シナプス構造を保持したままであるため、その機能発現が容易であると推測される。さらにCD73陽性の視細胞前駆細胞に種々の蛋白存在下で培養を継続した結果として、Rhodopsin陽性のほぼ視細胞と同等の形態の細胞を分化誘導できる。現在の問題点はRhodopsin陽性視細胞とGreen-opsin陽性視細胞を、網膜組織と同等の適切な比率で培養を行う点にある。そこで、培養系に添加する複数のケモカインの濃度を種々検討することで、最も至適な、in vivoの状況を反映できる培養条件を設定する。同時に我々の作製した培養視細胞シートの光反応性を明らかにする実験をin vitroで行う。最初にカルシウム流入を評価する。その後は電気生理学的に活動電位を評価する予定である。両者で陽性の成績を得て、光反応性が確認されればマウスを用いたin vivoでの移植実験に進む。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初は、複数の細胞株に様々な成長因子やケモカインの組み合わせを替えて分化誘導実験を行うことがRhodopsin陽性視細胞とGreen opsin陽性視細胞の作成には必要と考えた。しかし幸運なことには数種類目の組み合わせ実験で当初の目的である細胞をどの細胞株からでも分化誘導する事に成功した。加えて当初はモノクローナル抗体を用いた細胞ソーティング実験が必要と考えていた。我々の見出したプロトコールは効率が高くて細胞ソーティング実験を必要としないほど、高純度の細胞が細胞培養のみで得られることがわかった。そのため、簡便な方法で費用負担も軽く、上記視細胞が得られ、使用した経費は少なくてすむことになった。 当初の実験計画以上に順調に実験が進行している部分がある。即ち、視細胞を含む神経細胞に必須のネットワーク構造・シナプス構造を保持したまま、その機能発現が容易であると推測される視細胞シートが作成できた。そこで、この細胞が発現するRhodopsinやGreen-opsinが機能発現をすることができるのかをテスト出来る状況となった。我々の作製した培養視細胞シートの光反応性を明らかにする実験を本年度はin vitroで行う。最初にカルシウム流入を評価する。その後は電気生理学的に活動電位を評価する予定である。両者で陽性の成績を得て、光反応性が確認されればマウスを用いたin vivoでの移植実験に進むことを想定している。
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