研究課題/領域番号 |
24659773
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
窪田 正幸 新潟大学, 医歯学系, 教授 (50205150)
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研究分担者 |
松田 康伸 新潟大学, 医歯学系, 准教授 (40334669)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | mTOR / rapamycin / trachea / tracheal substitute / coil |
研究概要 |
広範気管欠損モデルにおける代用気管として、チタンニッケル形状記憶合金コイルを用いた代用気管を開発した。この代用気管により2ヵ月の長期生存が可能となったが、周囲に発生する肉芽組織発生を予防することができれば、さらに理想的な代用気管とすることができる。そこで、肉芽形成に関与すると考えられる細胞内mTORシグナル活性の肉芽組織における発現と、mTORシグナル活性を抑制するラパマイシンの全身投与における効果を家兎を用いて検討した。 代用気管装着のみの対象群5羽では、代用気管を作成するために摘出した気管組織と2ヵ月後に摘出した気管欠損部に発生した肉芽組織におけるmTORシグナル活性をwestern blot法で比較すると、mTORシグナル、その下流に位置するp70S6K, p-S6RPともに有意に上昇し、それぞれ16.6倍(気管組織0.7 ± 0.5 vs. 肉芽組織11.6 ±5.2; p< 0.05)、20.2倍(0.9 ± 0.4 vs. 18.2 ± 9.3; p< 0.05) 、5.3倍 (3.5 ± 4.8 vs. 18.6 ± 7.6; p< 0.01)であった。一方、代用気管装着前から装着後2ヵ月間ラパマイシンを投与した群では、mTOR、p70S6K、 p-S6RPの発現はそれぞれ4.0 ± 2.4 (p<0.001)、6.2 ± 3.9 (p<0.05) 、5.7 ± 2.8と有意に低下した。 しかし、臨床的にはラパマイシン投与群で5羽中4羽に呼吸困難が発生し、内視鏡で観察すると2ヵ月の時点で痂皮化する肉芽組織が柔らかい湿性の肉芽ヘと変化していた。こられの結果は、ラパマイシンを全身投与では、mTORシグナル活性は低下させる事ができるものの、副作用として線維化の過程が障害され、臨床的には好ましくない結果となっていた。今後の方策として、局所的投与が重要と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の計画として、肉芽組織におけるmTORシグナル系の発現とラパマイシンの抑制効果を予定通り検討することができ、100%の達成度と評価している。Western blot法を用いた解析では、肉芽組織における発現上昇とラパマイシンの全身投与における抑制効果を検討することができた。また、免疫組織学的検索により、正常組織では気管上皮に発現し、肉芽組織では肉芽内の紡錘形細胞に発現していることを明らかにできた。一方、ラパマイシンの全身投与ではmTORの発現は抑制されるものの、肉芽形成機構が障害され、肉芽が瘢痕化しないために、呼吸障害が発生するという結果をえた。ラパマイシンは、免疫抑制剤であるもののサイクロスポリンやFK506と異なりT細胞、B細胞に濃度依存性に多彩な作用を有することがわかっており、今回の肉芽形成抑制効果もその一つと考えられる。今回の実験結果より、次のステップであるより局所的なラパマイシンが治療戦略として有用であることを明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、3年計画の2年目の計画として、ラパマイシンの有用な局所投与の方向性を検討する。現在、準備を進めているのはヒトにおいて西欧では既に冠動脈形成用ステントに臨床応用がなされている薬剤徐放性ナノパーティクルを用いて、代用気管にパーティクルをコーティングし、局所的投与による肉芽抑制を検討することである。また、その他の局所的投与法としては、気管支鏡による気管内散布なども臨床的に可能であり、種々の方法を検討したい。 実験には、初年度同じWestern blot法、免疫組織染色法を用いて、肉芽におけるmTORシグナル活性の発現や細胞レベルでの発現部位を初年度と同様に検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
in vivoでは家兎購入・飼育費、動物実験薬品や物品費、さらにin vitro実験におけるwestern blotや免疫組織検査に必要な消耗品に使用する。実験成果発表のために、国際学会出張も企画している。
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