巨大色素母斑は、悪性黒色腫の発生が8%程度にあるとされ、外観上の問題と共に生命予後に関しても問題がある疾患である。本研究では、切除した色素母斑組織を完全に脱細胞化し、真皮組織として皮膚再生に使用することを目標に実施した。PBSをコントロールとし、1N高張力食塩水、0.1%SDS 水溶液、0.05%トリプシン水溶液、超高圧法(980MPa で10 分間加圧)の各方法で皮膚の脱(無)細胞化を行なった。無細胞化処理の後、検体を14 日間、4℃PBS 中で振盪し細胞遺残物の洗浄を行なった。評価はヘマトシキリンエオジン染色切片による細胞核の残存確認、組織内DNA残留量を比較した。また、組織中の細胞活性をWST8アッセイを用いて計測、比較した。細胞核が最も完全に除去されていたのは、SDS、次に超高圧法であり、それ以外の方法では14日間の洗浄を行なっても核は残存していた。細胞活性はいずれの方法でも洗浄を14日間行なうと見られなくなっていた。母斑組織細胞を用いて同様の検討も行なったが、正常皮膚と同じ傾向が見られた。免疫染色で表皮基底膜や真皮内血管の残存を確認したが、いずれの方法でもこれらは保たれていた。電子顕微鏡で組織損傷を評価したが、どの群でも明らかな組織マトリックスの損傷は認められなかった。1N高張力食塩水、0.1%SDS 水溶液、0.05%トリプシン水溶液で処理した皮膚に培養表皮を貼付したところ、SDS群でのみ培養表皮が生着しなかった。これらの結果からSDSにを用いた方法は効果的に脱細胞化が可能であるが、組織損傷あるいは残留SDSによる細胞毒性などがあり、組織を再生するには問題がある可能性が示唆された。
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