前年度においては以下のモデル作成を行った。すなわち、32匹の野生型ラットにおいて両側島状鼠径皮弁挙上後、右側では腹壁神経を切断・結紮し(非知覚皮弁モデル)、左側では挫滅損傷のみを加えた(知覚皮弁モデル)。皮弁内へ細胞移植後、再縫着した。20週後、皮弁遠位部・中心部よりそれぞれ皮弁組織を採取した。 本年度においては凍結切片をニューロフィラメントマーカーである抗PGP9.5抗体で蛍光染色し、脂肪組織由来幹細胞(ASC)、ASCより分化させたdASC、およびシュワン細胞(SC)移植が皮弁に及ぼす影響を検討した。その結果、細胞移植後20週目においてdASC、SC移植により皮弁遠位部において有意な神経再支配向上を認め、その程度は非知覚皮弁においてより顕著であった。一方、ASC移植は神経再支配の程度に有意な変化を及ぼさなかった。皮弁中心部においては、何れの細胞移植も神経再支配に有意に影響しなかった。 また、各細胞の生存期間を検討する目的で短い生存期間のモデルを作成し評価を行った。その結果、細胞移植後、皮弁内においてASC、dASC、SCはそれぞれ14、7、14日目まで生存することが確認できた。 dASC、SC移植による皮弁内神経再支配向上の機序として、1)移植細胞により産生される神経栄養因子による皮弁周囲からの知覚神経再生の促進、2)移植細胞由来NGFによる周辺組織内非損傷神経からの側芽形成促進が考えられる。これらの効果は移植後早期、皮弁遠位部に限定されるものの知覚皮弁に加えて皮弁知覚向上に対する新しいアプローチとなる可能性が示唆された。
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