脊髄損傷での急性期、及び亜急性期の治療の目的として神経細胞軸策突起の伸長を試みる。急性期における脊髄損傷の治療法として細胞移植術などが検討されているが、亜急性期以降においての治療法は確立したものがない。その理由として亜急性期以降での脊髄損傷部位の空洞化が指摘されている。そこで私達は細胞再生の足場となる人工基質を調整し成長因子を加えた状態で移植し、細胞が再生するための環境を整え、神経細胞軸策突起伸長の評価を行ってきた。方法として脊髄損傷亜急性期以降に起きる脊髄組織の空洞化を想定し、脊髄組織の部分切除を行うことで脊髄損傷モデルラットを樹立した。部分切除した部位と同等の大きに調整した人工マトリックスに塩基性繊維芽細胞成長因子を加え移植術を行い、術後8週の間、継時的に組織学的観察を行ってきた。それらの結果、H&E染色の顕微鏡観察から、術後1週で人工マトリックスと脊髄組織との境界が不鮮明となり、この人工基質が充分に脊髄組織との親和性を持っていることが確認できた。術後3週から4週では、この人工基質は脊髄組織に吸収され縮小し部分的に断片化が起きていたが空洞化を認めることは無かった。アストロサイトの反応は蛍光抗体法を用いた観察から、移植部位へ向かってのプロセスの伸長が観察できた。然し、同時に脊髄組織部分切除のみを行った群では脊髄組織の空洞化が起こり、その周りをアストロサイトのプロセスが囲うように存在していた。この時期には人工基質移植群では神経細胞軸索突起の萌芽が移植部位に向かって存在し、部分切除のみの部位では神経細胞軸索突起を観察できなかった。術後8週では、人工基質のみの移植群でも移植部位で神経細胞軸索突起の存在を確認できたが、人工基質に塩基性繊維芽細胞成長因子を加えて移植した群では、極めて細い繊維ではあるが移植部位中心部にも多数の神経細胞軸索突起の存在を確認できた。
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