核内タンパク質ヒストンは、敗血症などの病態において細胞外に放出され、致死性メディエーターとして作用することが報告されている。本研究においては、(1) 特異的血中ヒストン濃度の測定系を確立し、(2) それを利用して、敗血症・DICなどでの血中のヒストン濃度のダイナミズムを解析し、(3) 致死性メディエーターとしての細胞外ヒストン像を検証した。(1) まず、我々は血中ヒストンH3濃度を測定する方法の開発に取り組み、10-1000 ng/mL のレンジで検出可能なELISA系を確立した。(2) 次に、このELISA系を用いて健常人、敗血症・DIC患者、健康なマウス、敗血症モデルマウスの血中のヒストンH3濃度を測定したところ、健康な人、健康なマウスでは、測定した全例が0 ng/mL だったのに対し、敗血症・DIC患者では0-1464 (中央値: 19.2) ng/mL と有意に高値を示した。エンドトキシンを腹腔内に投与したマウスでは、投与4時間後までは血中ヒストンH3濃度が全例で0 ng/mL のままだったが、8時間後には0-336.1 (中央値: 10.3) ng/mL、12時間後には0-3834 (中央値: 20.0) ng/mL に上昇した。盲腸結紮穿刺による腹膜炎マウスでも、12時間後には2.6-1000 (中央値: 18.8) ng/mL に上昇した。(3) 次に、血中ヒストン濃度の上昇によって引き起こされる病態を考察するために、マウスの尾静脈からヒストンを静注して病態解析を行ったところ、血栓塞栓症のほか、心室頻拍のショートラン、房室ブロックなどの致死的不整脈を引き起こし、心停止に至ることが判明した。これらのことから、敗血症・DICの際には、核内タンパク質ヒストンが細胞外に放出されて血中濃度が高まり、これによって血栓症や心筋傷害が誘発される可能性が考えられた。
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