当研究室では、近年、急性腎傷害のバイオマーカーと知られるneutrophil gelatinase-associated lipocalin (NGAL)の細菌鉄獲得阻害機能(静菌効果)に着目し、腸内細菌叢との関連を検討している。本研究では、臨床的に問題となる感染症起因菌に対するNGALの静菌効果を検討するために、起因菌種として高頻度で単離される菌種に対するNGAL効果を探求することを目的に研究を行った。初年度に当たる平成24年度は、慶應義塾大学病院中央検査部門の協力のもと、臨床で高頻度に単離されるグラム陰性菌の同定調査を行い、Escherichia coli、Klebsiella pneumoniae、Enterobacter cloacaeの上位3菌種を標的細菌とした。平成25年度では細菌のTuf遺伝子を標的としたreal-time PCR法で、NGAL添加3時間後の増殖を定量的に解析した。NGAL1μgの添加ではEscherichia coli、Klebsiella pneumoniae、Enterobacter cloacaeの3菌種で対照群(生理食塩水)と比較し、同等程度に増殖し有意な増殖抑制を示さなかった。Escherichia coliにおいては標本数が少なく統計学的有意差を得られなかったものの、NGAL15μgの添加培養で増殖が抑制される傾向にあった。以上の結果より、本研究では高濃度NGALは臨床的に高頻度に単離されるEscherichia coliに対して増殖能を抑制しうる可能性が示唆された。
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