研究課題/領域番号 |
24659818
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
原田 英光 岩手医科大学, 歯学部, 教授 (70271210)
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研究分担者 |
依田 浩子 新潟大学, 医歯学系, 准教授 (60293213)
大津 圭史 岩手医科大学, 歯学部, 助教 (60509066)
井関 祥子 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (80251544)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 歯の発生 / 星状網 / 血管構築 |
研究概要 |
表皮や粘膜上皮などの上皮組織内には血管は見られない。歯の発生の鐘状期後期になるとエナメル器星状網は血管が複雑に入り込んだ構造を形成するようになる。血管新生の分子機構は,細胞培養や分子生物学的研究から解明されつつあるが不明な点も多い。そこで,この星状網と血管新生との関係を詳細に調べることによって,従来にない血管新生の新しいメカニズムの発見につながると考えた。我々は,上皮間葉転換(EMT)によって生じる間葉系幹細胞(MSC)が血管新生に重要な役割を果たしている可能性を考え,この仮説を証明する計画を立てた。上皮特異的プロモーターを用いた(K14-cre)マウスとRosa26Rマウス(あるいはRosa26R-YFP)の交配によるTGマウス(K14-cre/Rosa26R)の作製とK14-cre/Rosa26Rエナメル上皮細胞株を作製した。現在,このマウスとこの細胞株を用いてEMTの変化をモニターする実験系を作製中である。また血管内皮細胞をCD31,K14-cre/Rosa26Rエナメル上皮由来細胞を抗ガラクトシダーゼで2重染色を行った結果,同時に発現する細胞が認められたため,上皮細胞の血管構築への関与が推測できた。しかし,レーザー顕微鏡の解像度の問題もあり,電子顕微鏡での解析を進めている。星状網の血管内皮細胞が中胚葉由来の細胞かを検討するためにMesp1-creとRosa26Rマウスを交配したTGマウス(Mesp1-cre/Rosa26R)を用いて星状網内の血管内皮細胞を検出した。その結果,星状網内の血管内皮細胞の多くは,中胚葉由来であることが確認できたが,Mesp1発現細胞に由来しないと考えられる細胞も存在することから,エナメル上皮細胞が血管構築に関わってくる可能性も考えられた。24年度では基本的実験系が確立できてきたので今後は解析を進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)上皮特異的プロモーターを用いた(K14-cre)マウスとRosa26Rマウスの交配によるTGマウス(K14-cre/Rosa26R)は順調に作製できている。それに加え,このマウスからエナメル上皮細胞株も樹立できそうであるので,今後の研究に大いに活用できる。 2)K14-cre/Rosa26RTGマウスを用いてエナメル器星状網内の血管構築細胞について,CD31とβ-Galの2重染色を行った結果,エナメル上皮に由来する細胞が血管構築に関わっている可能性が強く示唆される結果を得ることができた。 3)Mesp1-creとRosa26Rマウスを交配したTGマウス(Mesp1-cre/Rosa26R)を用いて星状網の血管内皮細胞が中胚葉由来の細胞かを検討した。概ね,予想通りの結果を得ることができた。 4)歯の発生の帽状期から鐘状期後期に至る過程での遺伝子発現解析を行い予定であったが,網羅的解析を行うには十分な研究費ではなかったことから,この研究は断念した。しかし,基本的な,前もって候補としていた遺伝子発現については定量的PCRを用いてデータを得ることができた。 5)Flk1-GFPマウスの腎被膜下に生後一日齢の第1大臼歯歯胚を移植して,歯胚に進入する血管内皮細胞の動態と星状網上皮との相互作用をを詳細に観察する実験系を構築した。
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今後の研究の推進方策 |
K14-cre/Rosa26Rマウスをもとに,ケモカインCXCR4, N-cadherin,ビメンチン,EMTに関わるTgf-β,slug等の免疫染色と,β―ガラクトシダーゼ染色の2重染色を行い,星状網細胞がEMTを起こしているかを確認する。血管内皮細胞転写因子であるETS-1,また血管内皮細胞の増殖や分化に関わる成長因子のVEGFやIL-8等の免疫染色と,β-gal染色の2重染色を行い,星状網細胞が血管内皮細胞に分化したかを検討する。また,ダブルビームによる走査型電子顕微鏡によって星状網細胞と血管内皮細胞との3次元的ミクロ構造を観察する。また血管内皮細胞に発現するFlt1-GFPマウスを用いて,歯胚外から進入する血管網と星状網上皮との相互作用をリアルタイムイメージングを用いて観察する。 中胚葉のマーカーであるMesp1のプロモーターを用いたMesp1-cre/Rosa26Rマウスは作成済みなので,このマウスで星状網内の血管内皮細胞が中胚葉由来であるかを確認する。この研究に加え,ペリサイトが神経堤由来であることを確認して,星状網上皮細胞のEMTとの関連性をさらに追求する。 K14-cre/Rosa26Rマウスの星状網細胞を分離培養して,成長因子(たとえばTGF-βなど)を培地に加えることで,EMTが生じるかについて検討する。上皮細胞のマーカー,間葉細胞のマーカー,EMTに関わる遺伝子,さらには血管内皮細胞マーカーについての発現を時間経過的にRT-PCRアレイで検索する。また,歯胚のスライスカルチャーによって星状網内のEMT現象をリアルタイムイメージングで観察する。EMTが証明されれば,血管内皮細胞株Huvec との共培養を行い,遺伝子発現変化をもRT-PCRアレイで検索する。 以上の研究結果を基に,星状網細胞と血管内皮細胞との関係について考察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
実験動物の購入費,維持費 遺伝子発現の解析に用いる分子生物学的研究試薬 細胞培養に関わる培地やシャーレ等の消耗品 免疫組織学的解析に用いる抗体や発色試薬等の消耗品 顕微鏡のランプ,培養装置のガス,細胞保存のための液体窒素等の消耗品など
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