研究概要 |
人工多能性幹細胞 (iPS細胞) はマウスの皮下に移植すると奇形腫を作ることが知られている。しかし、この奇形腫では、本来生体に発生する卵巣奇形腫と異なり、歯や毛の器官形成がみられない。そこで、我々はiPS細胞由来の奇形腫の発生、成長過程における遺伝子発現と、本来の歯の発生における遺伝子発現とを比較検討することで、なぜiPS 由来奇形腫に歯が発生しないかを解明すると共に、歯の器官発生に必須な初期遺伝子の発見に努める。また、それらの遺伝子群が発見できればiPS由来の奇形腫に遺伝子導入し、歯の発生を誘導できるかを検討することでiPS細胞を用いた器官再生医療研究の糸口にしたいと考えた。昨年度、iPS細胞のヌードマウスに対する移植条件が確立できたため、その技術を用いて奇形腫内で歯の発生に重要な働きをする上皮幹細胞マーカーの発現を経時的に解析した。結果として、奇形腫の形成が進むにつれCK14,p63,CD49fなどの上皮細胞マーカーを発現する細胞が増加することが明らかとなった。また、iPS細胞奇形腫内に、特異的に上皮幹細胞を増殖させることを目的に、遺伝子の効果的導入方法の検討を行った。コントロールGFP発現ベクターをin vivo 遺伝子導入試薬、徐放性ビーズ、in vitro遺伝子導入試薬、エレクトロポレーションを用いて奇形腫に導入したところ、in vitro遺伝子導入試薬が最も高い遺伝子導入効率を示した。現在、同様の方法をもちいてsp-6遺伝子の奇形腫内導入を行い、上皮幹細胞の発現に変化があるか、歯胚の発生が見られるかを解析中である。また、歯胚の発生過程で特徴的な遺伝子の発現がその奇形腫内で見られるか、RT-PCRを用いて解析を行っている。
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