研究課題/領域番号 |
24659826
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
杉田 誠 広島大学, 医歯薬保健学研究院(歯), 教授 (50235884)
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キーワード | 味覚 / 情動 / ニューロン |
研究概要 |
苦味受容味細胞に経ニューロン性トレーサー(WGA-DsRed)を発現するトランスジェニックマウスにおいて、苦味受容味細胞から移行したWGA-DsRedは延髄孤束核の後方部に存在するニューロンに移行し、さらに橋結合腕傍核のニューロンに移行する。延髄孤束核と橋結合腕傍核ニューロンにおいて、苦味受容味細胞から移行したWGA-DsRedにより標識されるニューロンが、口腔内の苦味情報を選択的に伝導し処理するか、他の味質や内臓感覚情報等も伝導し複数種の情報を統合処理するかを、各種刺激後に活性化されるニューロンを最初期遺伝子Zif268の発現を指標にして検出することにより探究した。WGA-DsRedにより標識される延髄孤束核ニューロンは、口腔内の苦味刺激により活性化されZif268の発現誘導が観察され、苦味刺激による神経応答を抑制することが報告されているallyl isothiocyanateの口腔内前投与は苦味刺激によるZif268の発現誘導を抑制した。一方、胃内への苦味物質投与はZif268の発現を惹起しないため、WGA-DsRedにより標識される延髄孤束核ニューロンは消化管での受容情報ではなく、口腔内の味細胞で受容された苦味情報を伝導処理することが示唆された。口腔内甘味刺激や腹腔内への塩化リチウム投与はZif268の発現を誘導せず、苦味受容味細胞から移行したWGA-DsRedにより標識される延髄孤束核ニューロンは、口腔内の味細胞で受容された苦味情報を選択的に伝導処理することが示唆された。一方、延髄孤束核からの情報を受け取る橋結合腕傍核のWGA-DsRed標識ニューロンにおいては、苦味情報を選択的に伝導するニューロンと、苦味情報とその他の内臓感覚等の情報を統合するニューロンが、後方medial側と前方external lateral側において異なる分布を示すことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
苦味受容味細胞から移行したWGA-DsRedにより標識される橋結合腕傍核ニューロンの細胞機能をホールセルパッチクランプ法を用い解析しており、後方medial側の苦味伝導路構成ニューロンと前方external lateral側の苦味伝導路構成ニューロンでは、ノルアドレナリンとα-melanocyte stimulating hormoneに対する反応性が異なることが観察され、異なる神経伝達物質もしくは神経修飾物質によりシナプス伝達や伝達修飾が行われることが示唆されている。ノルアドレナリンやα-melanocyte stimulating hormoneを放出し、後方medial側や前方external lateral側のニューロンに入力するニューロンの同定や、後方medial側や前方external lateral側のニューロンにおけるシナプス伝達機構および神経修飾物質による修飾機構を解明しようとしているが、WGA-DsRedにより蛍光標識されるニューロンの数が限定されており、限定されたニューロンの中でパッチクランプ記録を行うことが困難である。
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今後の研究の推進方策 |
橋結合腕傍核において、苦味受容味細胞から移行したWGA-DsRedにより標識される苦味伝導路構成ニューロンのシナプス伝達機構とシナプス伝達の修飾機構をホールセルパッチクランプ法により継続して解析し、どのような神経伝達物質による入力をいかなる受容体により受容するか、そしてそれらがホルモン・神経修飾物質によりどのように調節されるかを解析する。橋結合腕傍核の苦味伝導路構成ニューロンに発現する分子を免疫組織学的に検出し、ニューロン種を同定する。また苦味伝導路構成ニューロンの中で、嫌悪性不快情動を惹起する他の感覚刺激(内臓感覚・痛覚・嗅覚)によっても共通して活動するニューロン群をZif268の発現を検出することにより探索し、WGA-DsRedを受け取る苦味伝導路構成ニューロンの中で、感覚入力を嫌悪性不快情動の生成へと変換する責任的役割を果たすニューロン(群)の候補を同定する。WGA-DsRedで標識された苦味伝導路構成ニューロンを選択的に除去することを可能にするImmunotoxin(抗WGA-DsRed抗体の抗原認識部位と細菌毒素の融合タンパク質)を作製し精製を行い、精製したImmunotoxinを用いて、Immunotoxinが選択的に毒性を発揮するかをWGA-DsRed発現培養細胞にて精査し、有効濃度を決定する。Immunotoxinを特定の脳領域に微量注入することにより、嫌悪性不快情動の生成に関与するニューロン候補として同定された特定のWGA-DsRed標識ニューロンを選択的に除去することが可能となるかを精査する。選択的除去が可能である場合、除去後に生じる情動連関行動の変化を解析し、苦味入力を嫌悪性不快情動の生成へと変換する責任的役割を果たすニューロンを特定することを目指す。
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