苦味もしくは甘味受容味細胞に経ニューロン性トレーサー(WGA-DsRed)を発現する2系統のトランスジェニックマウスにおいて、苦味・甘味受容味細胞から移行したWGA-DsRedにより標識される苦味・甘味伝導路構成ニューロンの脳内三次元的空間配置と保有する細胞機能を解析した。橋結合腕傍核領域において、甘味受容味細胞から移行したWGA-DsRedを受け取る甘味伝導路構成ニューロンは前方medial側に観察される一方、苦味伝導路構成ニューロンは後方medial側と前方external lateral側に観察される。後方medial側の苦味伝導路構成ニューロンをホールセルパッチクランプ法により解析すると、2種の減衰速度の異なる興奮性シナプス後電流(EPSC)が観察され、本ニューロンは神経伝達物質のグルタミン酸とノルアドレナリンによる入力をAMPA受容体とα1受容体を介して受け取り、それぞれ減衰速度の速いEPSCと遅いEPSCを誘発することが示唆された。また一部の苦味伝導路構成ニューロンにおいて、α1受容体遮断薬の投与は、減衰速度の早いEPSCの電流量を増大させることが観察され、ノルアドレナリンは本ニューロンのシナプス伝達入力に少なくとも2種の様式で関与することが示唆された。扁桃体において、苦味伝導路構成ニューロンはbasolateral amygdalaとbasomedial amygdalaに、甘味伝導路構成ニューロンはbasolateral amygdalaに観察され、両者の局在に一部重複がみられた。Medial amygdalaにおいて苦味伝導路構成ニューロンは甘味伝導路構成ニューロンに比べ後方に配置したが、Cortical amygdalaにおいては逆に、苦味伝導路構成ニューロンは甘味伝導路構成ニューロンに比べ前方に配置した。それらのニューロンの中で、異なるニューロン群が苦味と甘味刺激による対照的な情動連関行動の発現に関与することが考えられる。
|