研究概要 |
本研究は「ミトコンドリアDNAがTLR9のリガンドとなり自然免疫システムを異常に活性化することで難治性疼痛を引き起こす」という仮説に対するエビデンスを確立することを目的とする。遺伝子Unc93bの点突然変異をもつ3DマウスではTLR3, TLR7ならびにTLR9のエンドソームへの移行が障害されており、このためこれらのTLRのリガンドに対する応答が欠如している。平成24年度の結果より、神経障害性疼痛モデルにおいて3Dマウスは野性型マウスと比較して有意に高い疼痛閾値を示し、脊髄後角ミクログリアの活性化は有意低下していた。平成25年度は定量的RT-PCR法を用い、脊髄後角における炎症性分子(IFN- γ, IL-1β, TNF-α)ならびに抗炎症性分子(IL-10, Arginase-1)の発現を定量的に解析した。その結果、野性型マウスでは末梢神経障害3日目でIL-1βならびにTNF-αの有意な発現増大が、末梢神経障害7日目ではIL-1β, TNF-αならびにIFN- γの有意な発現増大が認められた。ところが、3Dマウスでは末梢神経障害に伴う炎症性分子の有意な発現増大は認められなかった。一方、野性型マウスでは末梢神経に伴う抗炎症性分子(IL-10, Arginase-1)の有意な発現増大は認められなかったが、3Dマウスでは末梢神経障害3日目ならびに7日目においてIL-10ならびに Arginase-1の有意な発現増大が認められた。次にTLR9のリガンドについて解析を行った結果、末梢神経障害に伴ってミトコンドリアDNAの増加は認められなかったがTLR9のリガンドとなることが知られているHMGB1が脊髄後角で増大することが示唆された。以上の結果より、末梢神経障害に伴って増大し脊髄ミクログリアに取り込まれたHMGB1がエンドソームに移行し、TRR9を活性化することでミクログリアをM1タイプに分化させ、IL-1β, TNF-αならびにIFN- γなどの炎症性分子の産生分泌を惹起し、神経障害性疼痛の発症・進展に関与することが示唆された。
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