研究課題
挑戦的萌芽研究
胚発生の過程で出現する神経堤細胞は、胚内を活発に遊走した後、遊走先で様々な細胞に分化して組織の形成や維持を担う。神経堤細胞の異常は奇形、免疫疾患、癌などの発症に密接に関係し、その医学的重要性は極めて高い。また、神経堤細胞は成長後も幹細胞の性質を維持し歯髄細胞、象牙芽細胞、骨芽細胞等への多分化能をもつため再生医療の新しい細胞ソースとして期待される。しかし、神経堤細胞がどのような細胞種に分化するのか未だに不明な部分が多く残されている。したがって、未知の神経堤細胞由来の細胞を同定できれば、神経堤細胞の研究の発展に寄与するだけでなく、難治疾患の原因究明や再生医療用の細胞ソースとして役立つ。そのためには、成体のどの組織にどのような種類の細胞として存在するのか詳細に解析する必要がある。H24年度は、未知の神経堤由来細胞を探索するため、神経堤細胞がGFPで標識された遺伝子改変マウスを用いて組織、細胞、分子レベルでの解析を実施した。蛍光顕微鏡を用いて組織中の神経堤細胞を可視化し、顎口腔での局在や形態を解析したところ、口腔粘膜や皮膚に神経堤由来細胞が観察された。さらに、顎口腔より採取した組織から細胞を分散させ、FACS Aria IIでGFP陽性細胞するのに成功した。これらの細胞を用いて、皮膚より分離した神経堤細胞(GFP陽性細胞)と通常の組織細胞(GFP陰性細胞)の遺伝子発現の違いについて、DNAマイクロアレイ解析システムにより解析し、候補因子を選抜した。また、毛包にも神経堤由来細胞が存在することを見出し、詳細な解析にとりかかった。
2: おおむね順調に進展している
H24年度は、未知の神経堤由来細胞を探索することを主たる目的としていた。計画に準じて研究を遂行した結果、粘膜組織(口腔粘膜、食道、胃、大腸)と、外皮に神経堤由来細胞の存在を見出した。さらに、それらの細胞がケラチノサイトであることを組織学的な解析と、遺伝子の発現解析によって明らかにした。また、毛包にも神経堤由来細胞が存在することを見出し、再生医療の細胞ソースを採取するときに侵襲性が低い組織から神経堤由来細胞を採取することが可能となった。これらの結果は世界で最初の発見であり、未知の神経堤由来細胞を見出すという、当初の目的を達成したことから、計画はおおむね順調に進展しているといえる。
H25年度は、H24年度に見出した粘膜組織を始め、毛包に存在する神経堤細胞の性質について詳細を明らかにする。とりわけ、毛包の神経堤細胞は、再生医療の新しい細胞ソースとして期待が大きく、その細胞から様々な細胞を分化誘導できれば、再生医療に役立つと期待できる。そこで、毛包の神経堤細胞を培養し、それらがどのような性質を持っているのか解析をおこなっていく。特に、骨芽細胞、脂肪細胞、神経細胞などへの分化能を検討することにより、硬組織疾患への応用を可能にしたいと考えている。また、骨芽細胞への分化誘導がどのようなメカニズムで進行するのか、遺伝子発現やタンパク質の発現についてそれらの制御機構を解析する。
1. 動物実験とその解析: 本研究は、in vivoの実験を中心としており、今後約200匹のマウスの購入が必要である。また飼育、ジェノタイピングなどの経費を必要とする。2. 組織解析・細胞解析: マウスの骨組織切片解析委託費用が必要となる。フローサイトメトリーや細胞標識のための抗体および細胞培養のための器具および培地血清の購入が必要である。3. 遺伝子発現解析: DNAマイクロアレイやプロテインアレイ、タンパク質量解析のための経費およびRNA抽出試薬と逆転写酵素を要する。4. その他の器具・試薬: 遺伝子操作や細胞操作に用いる遠沈管、ピペット等や動物手術用具を購入する。5. 旅費・謝金・その他:学会で研究成果発表を行うための経費を要する。論文投稿論、英文校正、および別刷り購入のための経費を必要とする。
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