口腔顔面部に慢性痛を訴える顎関節症患者において痛みの強さがどのように認識されているかを明らかにすることを目的とした. 右側咬筋相当部(V3),および右側前腕部(FA)において,温度刺激装置(PATHWAY,Medoc社)を用いて痛覚閾値を連続6回測定し,その平均を各被験者の疼痛閾値温度(t ℃)とし,t ±1℃の範囲で0.5℃間隔の強度の異なる5段階の温熱刺激をランダムに2度ずつ計10回与えた.刺激を痛みとして認識した際の強さをVisual Analogue Scale(以下VAS)で記入させ,与えた刺激強度とVAS値との関連をSpearmanの相関係数により検討した. 健常者57名において,温熱刺激の強度とVAS値との相関係数は,男性ではV3領域,FA領域で各々0.713(P < .001),0.751(P < .001),女性ではV3領域,FA領域で各々0.600(P < .001),0.630(P < .001)であり,健常成人における与えられた温熱刺激の強度と,主観的な痛みの強さとの間に正の相関関係があることが示された. さらに,顎関節症と診断された治療介入前の女性患者20名,対照群として健常成人女性20名を比較した結果,温熱刺激の強度とVAS値との関連に関しては,対照群ではFA領域で相関係数0.673(P < .001)と有意な高い相関を認めたが,V3領域の相関係数は0.476(P < .001)と有意ではあるがFA領域と比較して低い相関を示した.顎関節症群ではV3領域,FA領域で各々0.305(P = .002),0.324(P = .001)と有意ではあるが低い相関しか認めなかった.すなわち,顎関節症群では,温熱刺激の強弱を主観的に正しく認識することが困難な状態であると考えられ,中枢における包括的な痛みの認識過程に歪みがある可能性が示唆された.
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