研究課題/領域番号 |
24659858
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
江草 宏 大阪大学, 歯学研究科(研究院), 助教 (30379078)
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研究分担者 |
中野 環 大阪大学, 歯学研究科(研究院), 助教 (40379079)
矢谷 博文 大阪大学, 歯学研究科(研究院), 教授 (80174530)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | iPS細胞 / 骨芽細胞 |
研究概要 |
総義歯装着者の顎堤、あるいはインプラント治療で骨増生術を施した部位の歯槽骨は、徐々に吸収されていくが、歯槽骨吸収の程度や速度には大きな「個人差」がある。ただし、現在の補綴歯科治療には、歯槽骨吸収の個人差を評価するための分子生物学的な診断法はなく、治療経過は患者の治癒能力に頼らざるを得ないのが現状である。一方で、個々の患者から作製可能なiPS細胞(人工多能性幹細胞)は、どんな細胞にもなれる万能細胞であるため、試験管内で患者固有の生体反応を再現するツールとなる可能性を秘めている。本研究では、患者の歯肉から作製したiPS細胞を、試験管内で骨代謝関連細胞に誘導し、これら細胞の骨代謝機能を評価することで、歯槽骨吸収リスクの術前診断技術に繋げようとする戦略を提案する。本年度は、大阪大学歯学部附属病院・口腔補綴科を受診した患者を対象に、歯科治療の際に切除された歯肉から線維芽細胞を分離培養した。分離培養した歯肉線維芽細胞から、江草らの方法(PLoS ONE, 2010)に従いiPS細胞を作製した。ただし、ウイルスベクターを用いてiPS細胞を樹立した場合、染色体上に遺伝子を挿入してしまうため、予期しない遺伝子の活性化や抑制が起こる可能性があり、iPS細胞の個体差の解析に影響を及ぼすことが危惧される。そこで、ウイルスベクターの代わりにエピソーマルプラスミドを用いてiPS細胞の樹立を試み、これに成功した。作製したiPS細胞株について、リアルタイムRT-PCR解析(ES細胞特異的な遺伝子発現の評価)およびテラトーマ形成実験(多分化能評価)を用いて評価した結果、ES細胞と同様の性質を有していることが確認された。今後、これらの患者由来iPS細胞を骨芽細胞/破骨細胞へ分化誘導する技術を確立し、分化過程の個体差を解析していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
iPS細胞樹立時の無作為な遺伝子挿入は、各患者由来のiPS細胞の性質を比較する際に予期せぬ影響を及ぼしてしまう可能性がある。本年度に、患者の歯肉から染色体への遺伝子挿入のない方法を用いてiPS細胞を樹立する技術を確立することができたため、研究計画はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、初年度に確立したiPS細胞を用いて、骨芽細胞あるいは破骨細胞へ分化誘導することで、分化過程の個体差を検出していく。また、各患者由来の骨芽細胞あるいは破骨細胞に、骨形成促進剤(BMP-2)あるいは骨吸収抑制剤(ビスフォスフォネート)などの生理活性因子を添加して各細胞の分化能・機能を分子生物学的に検討し、各細胞に対する薬剤の効果に患者間の相違(個人差)があるか否かを検討する予定である。さらに、被験者が骨増生術を施した場合には、経時的に撮影される口腔内写真およびX線写真の資料から施術部位の歯槽堤量(頬舌的幅系)を評価する。この評価結果を、同じ患者由来のiPS細胞を用いた骨代謝機能の評価結果と比較し、関連性の有無を検討する。その結果、患者から作製したiPS細胞が歯槽骨吸収リスクの術前診断に用いることが可能であるか否かを検討していく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費の使用は、主にiPS細胞の培養や分子生物学的な解析に必要な消耗品を主に予定している。また、研究成果を学会にて発表し、論文を作成するための費用も予定している。
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