研究課題
歯槽骨増生術を施した部位における骨組織再生の程度や速度には大きな個人差がある。ただし、現在の補綴歯科治療には歯槽骨再生の個人差を評価するための分子生物学的な診断法はなく、治療経過は患者の治癒能力に頼らざるを得ないのが現状である。一方で、個々の患者から作製可能なiPS細胞(人工多能性幹細胞)は、どんな細胞にもなれる万能細胞であるため、試験管内で患者固有の生体反応を再現するツールとなる可能性を秘めている。本研究では、患者の歯肉から作製したiPS細胞を試験管内で骨芽細胞に誘導し、その分化能の評価が、骨組織再生の術前診断技術の基盤技術となる可能性を探索することを目的とした。まず、歯科治療の際に切除された歯肉から分離した線維芽細胞からiPS細胞を作製した。ただし、ウイルスベクターを用いてiPS細胞を樹立した場合、染色体上に遺伝子を挿入してしまうため、予期しない遺伝子の活性化や抑制が起こる可能性があり、iPS細胞の個体差の解析に影響を及ぼすことが危惧される。そこで、ウイルスベクターの代わりにエピソーマルプラスミドを用いてiPS細胞の樹立を試みた。作製した細胞株は、ES細胞特異的な遺伝子発現および多分化能を有したiPS細胞であることが確認された。次に、iPS細胞の確実な骨芽細胞分化誘導法を確立するため、マウス歯肉線維芽細胞由来iPS細胞を用いた検討を行い、iPS細胞を凝集体の状態で分化誘導することにより、骨基質の豊富なハイドロキシアパタイト結晶構造を有する成熟な骨芽細胞への分化が可能であることを明らかにした。本研究の成果は、将来的に染色体に遺伝子挿入のないiPS細胞を骨芽細胞に分化誘導することで分化過程の個体差を検出していく技術に繋がる可能性があり、今後の研究の発展が期待される。
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Stem Cells Dev
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