研究課題/領域番号 |
24659870
|
研究種目 |
挑戦的萌芽研究
|
研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
池田 正明 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (20193211)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 分化転換 / 骨 / リプログラミング / siRNA / ARID3A / 繊維芽細胞 / 間葉系幹細胞 / 再生医療 |
研究概要 |
人工多能性幹細胞(iPS細胞)を介さずに直接必要な細胞に変化させる技術は直接分化転換(ダイレクト・リプログラミング)と呼ばれ、再生医療の新しい手法として大きな注目を集めている。しかしながら、現状では分化転換効率が低いため、臨床への応用には多くの課題が残されている。そこで当初、本研究は、(1)インスレーターによるゲノムの区画化を解除することにより、効率的かつ広範囲なゲノムのリプログラミングを促進することを試みる。(2)さらに、目的の細胞を誘導するマスター制御遺伝子の導入することにより、繊維芽細胞を骨細胞に効率よく直接分化転換することを目指した。 ゲノムのリプログラミングを促進させるため、ヒトの繊維芽細胞にARID3A特異siRNAを導入した。しかしながら、増殖抑制が引き起こされたため、ARID3A単独の発現抑制では、ゲノムのリプログラミングをおこなうには不十分であることが分かった。この点を改善するため、複数のがん抑制遺伝子に対するsiRNAを様々な組み合わせで導入し、スクリーニングをおこなった結果、ARID3A発現抑制による増殖抑制を解除するsiRNAの組み合わせを明らかにした。さらに上記のsiRNAをヒト繊維芽細胞に導入し、間葉系幹細胞に適した条件下で培養した。得られた細胞を分化誘導培地で3~4週間培養した結果、骨および脂肪細胞への分化が認められた。 当初の研究実施計画では、骨分化を誘導するマスター制御遺伝子の導入をおこなう予定であったが、以上の結果は、ARID3Aを含む複数の遺伝子の発現抑制により、マスター制御遺伝子の導入なしでヒト正常繊維芽細胞から骨および脂肪細胞への分化変換が可能であることを示唆している。 したがって本研究の成果は、これまでにない新しい直接分化転換法の開発と硬組織の再生医療への応用につながる可能性がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初、本研究は、ゲノムのリプログラミングを促進するため、ARID3Aの発現を抑制すると共に、目的の細胞を誘導するマスター制御遺伝子の導入することにより、繊維芽細胞を骨細胞に効率よく直接分化転換することを目指した。 しかしながら、ARID3Aを含む複数の遺伝子の発現を抑制するだけで繊維芽細胞を骨および脂肪細胞へと分化転換が可能なことが分かった。このことは、目的の細胞を誘導するRUNX2等のマスター制御遺伝子の導入することなしに、繊維芽細胞を骨細胞に直接分化転換できる可能性を示唆している。したがって、以上の成果は、本研究の主要な目的の一部が達成されたものと考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの解析の結果、繊維芽細胞から骨および脂肪細胞へ直接分化転換させる可能性を見出したが、分化転換される細胞はごく一部の細胞であり、分化転換効率は低いのが現状である。 ARID3Aを含む遺伝子の発現抑制によって生じた細胞は、間葉系幹細胞様の多分化能をもった細胞と考えられる。しかしながら、既に培養条件が確立し、ほぼ無限に増えるとされるESあるいはiPS細胞と異なり、in vitroでの間葉系幹細胞の増殖と多分化能維持できる培養期間には限界があり、間葉系幹細胞を用いた再生医療おける問題点の一つとなっている。そこで今後、分化転換の効率を上昇させるため、siRNA導入法および培養条件の改良をおこなうと共に、幹細胞としての性質を長期間維持する培養条件の検討をおこなう予定である。 さらに(1)骨・軟骨・脂肪細胞への分化誘導に伴う分化マーカーの測定、および分化関連遺伝子の発現解析、(2)分化転換に伴うエピジェネティックな修飾(DNA塩基のメチル化およびヒストンの化学修飾)の解析、(3)分化転換して得られた細胞をヌードマウスの体内に移植し、in vivoにおける骨形成能の検討をおこなう。
|
次年度の研究費の使用計画 |
以下の用途に研究費を使用する計画である。 (1)細胞培養に用いるsiRNA導入試薬、細胞培養培地、増殖因子、分化誘導試薬および血清の購入。 (2)遺伝子発現解析、生化学実験および免疫組織化学的解析に用いる試薬の購入。 (3)生体内における骨形成能を検討するための実験動物(ヌードマウス)の購入 (4)研究発表のための旅費。
|