研究課題/領域番号 |
24659870
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
池田 正明 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (20193211)
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キーワード | リプログラミング / 繊維芽細胞 / 骨 / 軟骨 / 脂肪 / 再生医療 |
研究概要 |
人工多能性幹細胞(iPS細胞)を介さずに直接必要な細胞に変化させる技術は直接分化転換(ダイレクト・リプログラミング)と呼ばれ、再生医療の新しい手法として大きな注目を集めている。しかしながら、現状では分化転換効率が低いため、臨床への応用には多くの課題が残されている。そこで本研究は、(1)インスレーターによるゲノムの区画化を解除することにより、効率的かつ広範囲なゲノムのリプログラミングを促進することを試み、(2)さらに、目的の細胞を誘導するマスター制御遺伝子の導入することにより、繊維芽細胞を骨細胞に効率よく直接分化転換することを目指した。 ゲノムのリプログラミングを促進させるため、ヒト繊維芽細胞にARID3A遺伝子に特異なsiRNAを導入し、さらに幹細胞化を促進・維持する小分子化合物・増殖因子を様々な組み合わせで添加した後、ヒト線維芽細胞から骨・脂肪細胞への分化転換を指標に機能的なスクリーニングをおこなった。分化誘導培地で培養した結果、骨および脂肪細胞への分化を示す組み合わせを見出した。分化転換効率を上げるために、さらに分小分子化合物・増殖因子のスクリーニングをおこなったところ、siRNAの導入をおこなわなくとも、ヒト線維芽細胞を骨・脂肪細胞に分化転換できる小分子化合物・増殖因子の組み合わせを見出した。 以上の結果は、計画立案当初の予想に反して、特定の遺伝子の発現抑制およびマスター制御遺伝子の導入をおこなわなくとも、小分子化合物・増殖因子を添加するだけでヒト正常繊維芽細胞を骨および脂肪細胞に分化変換できることを示すものである。したがって本研究の成果は、これまでにない新しい直接分化転換法の開発と硬組織の再生医療への応用につながる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、当初、ゲノムのリプログラミングを促進するため、ARID3Aの発現を抑制すると共に、目的の細胞を誘導するマスター制御遺伝子の導入することにより、繊維芽細胞を骨細胞に効率よく直接分化転換することを目指した。しかしながら、様々の小分子化合物・増殖因子をスクリーニングした結果、全く予想していなかったことであるが、特定の遺伝子の発現抑制や遺伝子の強制発現をおこなわずに、ヒト正常繊維芽細胞を骨および脂肪細胞へ直接分化変換することできる小分子化合物・増殖因子の組み合わせを見出した。 siRNA等を用いた遺伝子の発現抑制やベクターを用いた遺伝子の強制発現の操作は、多くの実験操作を必要とするだけでなく、発がん性など安全性の観点からも問題点が多い。これに対して本研究の成果は、遺伝子操作を全く用いずに繊維芽細胞を骨および脂肪細胞に直接分化転換できる可能性を示すものであり、研究計画立案当初の予想を越える成果が得られたと考えられる。本研究の成果を発表するためにはさらに研究をおこなう必要があるが、当初の交付申請書に記載した「研究の目的」の中核になる部分については、目的をほぼ達成できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの解析の結果、ヒト正常繊維芽細胞を骨および脂肪細胞へ直接分化変換することできる小分子化合物・増殖因子の組み合わせを見出した。しかしながら、分化転換して得られた細胞の分化マーカーの発現や実験動物を用いた生体内での骨形成能の確認など、本研究の成果を発表するためにはさらに研究をおこなう必要がある。本研究の成果を将来的な臨床応用につなげるために、以下の研究をおこなう予定であるが、本研究課題の目的を越える部分もあるため、他の研究費も使用することにより本研究を完成させる予定である。 (1)ヒト線維芽細胞の脱分化・分化転換に最適な条件を詳細に検討し、短期間にかつ効率的に骨・軟骨・脂肪細胞へ転換できる培養系を確立する。(2)分化転換した細胞の骨・軟骨・脂肪への分化能を評価するため、分化マーカーの詳細な発現解析をおこなう。(3)分化転換に伴うエピジェネティックな修飾(DNA塩基のメチル化およびヒストンの化学修飾)の解析をおこなう。(4)分化転換して得られた細胞を免疫不全マウスに移植して生体内での硬組織形成能・造腫瘍能を調べる。(5)線維芽細胞から分化多能性をもつ幹細胞への転換ができるかどうかを検討し、その長期継代培養法の確立を試みる。
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