人工多能性幹細胞(iPS細胞)を介さずに直接必要な細胞に変化させる技術は直接分化転換(ダイレクト・リプログラミング)と呼ばれ、再生医療の新しい手法として大きな注目を集めている。しかしながら、現状では分化転換効率が低いため、臨床への応用には多くの課題が残されている。そこで当初、本研究は、(1)インスレーターによるゲノムの区画化を解除することにより、効率的かつ広範囲なゲノムのリプログラミングを促進することを試み、(2)さらに、目的の細胞を誘導するマスター制御遺伝子の導入することにより、繊維芽細胞を骨細胞に効率よく直接分化転換することを目指した。 当初の計画では、ゲノムのリプログラミングを促進させるため、ARID3A遺伝子に特異なsiRNAと目的の細胞を誘導するマスター制御遺伝子を繊維芽細胞に導入する予定であった。しかしながら、幹細胞化を促進・維持する小分子化合物・増殖因子を様々な組み合わせで検討した結果、siRNAや遺伝子の導入をおこなわなくとも、ヒト線維芽細胞を骨・脂肪細胞に分化転換できる小分子化合物・増殖因子の組み合わせを見出した。 以上の結果は、計画立案当初の予想に反して、小分子化合物・増殖因子を添加するだけでヒト正常繊維芽細胞が骨および脂肪細胞へ分化変換できることを示すものである。したがって本研究の成果は、これまでにない新しい直接分化転換法の開発と硬組織の再生医療への応用につながる可能性がある。しかしながら、繊維芽細胞が骨および脂肪細胞へ分化変換効率はまだ低く、分化転換効率を上昇させることが今後の課題であり、さらに培養条件の詳細な検討をおこなっていく必要がある。
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