低濃度時にのみ機能するドラッグデリバリーシステム(DDS)があれば,副作用の強い薬剤も効果的に使用でき,未来医療のブレークスルーとなることは間違いない。本研究では,多糖誘導体リン酸化プルランが薬剤の濃度変化に伴い会合状態を変えることを応用して,薬剤の濃度を検知して機能するインテリジェントDDS を創製することを目指した。まず,キャリアとなるリン酸化プルランについて,実用化を視野に入れて合成方法を見直した結果,塩化ホスホリルを用いることにより,これまでの加熱による合成法に比べて安定してリン酸化プルランを得られることが明らかとなった。この合成技術を応用して様々なリン酸化率のリン酸化プルランを合成し,抗菌剤CPCとの複合体の構造形成および薬剤徐放のメカニズムについて評価した。その結果,仕込み量を調整することでリン酸置換度DSが0.07,0.10,0.14のリン酸化プルランを合成することができた。また,リン酸化率の異なるいずれのリン酸化プルランにおいても,複合体の濃度が1000 ppmでは濁りを生じ,濃度を低くしていくに従い濁りも薄くなっていくが,さらに薄くなって100 ppmで再び濁りを生じることが明らかとなった。これは,CPCの臨界ミセル濃度が約300 ppmであることから,300 ppm以上ではCPCがミセルを形成してCPCをリン酸化プルランが内包しているミセル型の複合体を形成し,それ以下ではCPCがミセルを形成せず,リン酸化プルラン上に分散した形をとる非ミセル型の複合体を形成するためと考えられる。この複合体について100~500ppmの溶液を調整して細菌実験により抗菌効果を評価した結果,300~500ppmでは抗菌効果を発揮せず,低濃度の100,200ppmで抗菌効果を発揮していた。この知見は,低濃度時にのみ機能するインテリジェントDDSの開発につながると期待される。
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