研究課題/領域番号 |
24659876
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
加藤 幸夫 広島大学, 医歯薬保健学研究院, 教授 (10112062)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 間葉系幹細胞 / 培養皿 / 無血清培地 / 再生医療 |
研究概要 |
我々は、すでに間葉系幹細胞用の無血清培養液STK1(分離、初代用)、STK2(増幅用、継代培養用)およびSTK3(骨分化用)を開発した。しかし、間葉系幹細胞を化学的に規定化した培養システムで培養するためは、無血清培養液に加えて、培養皿表層の化学組成を規定化する必要がある。従来のプラズマ処置プラスチック培養皿は化学的に規定化されていない。そこで我々は、アミノ基、カルボキシル基、水酸基、メチル基のうち、2種類の官能基をさまざまな割合で組み合わせた、混合自己組織化単層分子膜(SAM)を作製して、カルボキシル基、水酸基の組み合わせ(No8 SAM)が, 無血清での間葉系幹細胞の増殖を促進することを見いだした。 本年度は、No8 SAMで培養した間葉系幹細胞が、脂肪分化能、軟骨分化能、骨分化能を示すことをさらに確証した。次いで、カルボキシル基のかわりの陰イオンとしてリン酸基をSAMに導入した。リン酸基と水酸基の混合SAMはカルボキシル基と水酸基の混合SAM(No 8)より少し活性が弱いもののほとんど同等の増殖促進作用を示した。つまり水酸基と陰イオンの組み合わせが、間葉系幹細胞の増殖に至適であることが判明した。 また,カルボキシル基と水酸基の混合SAM(No 8)に加えて、フィブロネクチンの細胞結合ドメインであるRGDペプチドをもつアルカンチオールを配合した3種SAMを作製した。RGDペプチドの導入は細胞接着を促進したものの、増殖を抑制した。強力すぎる接着は、増殖に抑制的に作用することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カルボキシル基の替わりに、リン酸基を配合したSAMが、ヒト骨髄間葉系幹細胞の増殖を促進した。このことは、陰イオンと水酸基の組み合わせが、ヒト間葉系幹細胞の接着、増殖のための基質として有用であることを明らかにした。 ただし、ラット骨髄間葉系幹細胞については、陰イオンと水酸基の組み合わせに加えて、他の官能基の組み合わせも増殖を促進した。ラットとヒトの細胞の細胞膜蛋白の性質が大きく違うとは考えにくいので、我々はラットとヒトの細胞膜の糖鎖の違いが、至適官能基組成に影響するのではないかと考えている。 またRDG pepetide配合SAMを各種の濃度でNo8 SAMに追加した3種混合SAMについても検討した。RDG pepetide配合SAMは一部の細胞の接着を促進することが報告されている。我々も、無血清培養条件下で、RDG pepetide配合SAMがヒト間葉系幹細胞の接着を許容することを見いだした。 しかしいずれの濃度でも。RDG pepetide配合SAMは、ヒト骨髄間葉系幹細胞の増殖を促進しなかった。これは接着力がつよく、細胞の遊走が阻止されたためではないかと解釈している(細胞集団がばらけなかった)。 アミノ基、カルボキシル基、水酸基、メチル基の中から、3種官能基を組み合わせる計画については、あまりにも組み合わせ数が多すぎて、金蒸着基盤を用意できなかった。これについては研究費との兼ね合いで次年度に考えたい。
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今後の研究の推進方策 |
細胞表層の糖鎖(ガングリオシドなどの細胞膜糖脂質を含む)がラフト形成などを介して、細胞の接着と増殖に影響することが報告されている。SAM基盤についても細胞膜表層糖鎖との相互作用を至適化することが必要かもしれない。この点を次年度検討したい。また細胞接着斑やアクチンファイバー形成に及ぼす官能基配合の影響についてもさらに追求したい。またSAMとは違う方法で官能基を導入したポリマー器材塗布培養皿についても検討したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の計画通り、品目は消耗品と旅費に使う。 消耗品とは試薬、培養器具、実験動物である。
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