研究概要 |
昨年度の研究において、先行研究で開発した、マウスES細胞(ES-D3)の未分化性と多分化能を、フィーダー細胞無しで維持可能な無血清培地ESF7培地は、マウス由来iPS細胞の未分化性と多分化能の長期継代維持にも有用であることを明らかにした。 本年度は、我々がESF7培地をもとに開発した、ヒトES細胞の未分化性と多分化能をフィーダー細胞を用いずに維持可能な無血清培地hESF9を用いることで、ヒト歯髄細胞からiPS細胞の誘導と未分化性と多分化能の維持が可能であることを明らかにした。 ヒト歯髄細胞にレトロウイルスを用いて4遺伝子(Oct3/4,Sox2,KLF4,c-Myc)を導入後、fibronectin上に播種し、hESF9培地を用いて歯髄細胞由来iPS細胞を樹立することに成功した。またヒトiPS細胞の未分化性と多分化能を長期間安定して維持するために必要な因子を明らかにするため、種々の細胞増殖因子を検討した結果、TGF-β1が必須因子であることを明らかにした。同iPS細胞は未分化遺伝子および蛋白を発現しており、無血清再集合胚葉体培養系において、外胚葉、中胚葉、内胚葉の3胚葉組織への分化を認めた。特に、歯や顎顔面組織に特徴的な神経外胚葉組織への分化が顕著であった。また、ヌードマウス移植によりテラトーマ形成能を有し、組織学的に三胚葉への分化能を有していた。本無血清培地(hESF9)は、精製された因子のみから成り、他種動物あるいは他人の細胞由来のウイルスなどの感染物質の混入の恐れがなく、移植医療応用の際に拒絶反応を引き起こす危険性のある抗原物質を回避することが可能となる。本無血清培養法を用いることで、歯髄由来ヒトiPS細胞の増殖・分化を制御する各種因子の検討が標準化できるとともに、歯胚誘導や口腔組織再生研究のソースとして有用となるとともに、創薬スクリーニングへの応用に加えて、安全で確実な再生医療の実現が可能となると考えられた。
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