研究概要 |
歯牙腫は、顎骨内に発生する歯牙様の硬組織を主体とする歯原性腫瘍であり、過誤腫に分類されている病変である。歯牙腫の発現は臨床的には決して珍しくなく、歯原性腫瘍のなかでは発生頻度の高い腫瘍であるが、同一顎骨内で複数の歯牙種が発現することは非常に稀とされている。本研究で解析を行った2症例は、上下顎に存在している全て大臼歯の歯根分岐部に歯牙種が発現していた。 抜去した大臼歯および摘出した歯牙腫の組織切片において、エナメル小柱の形態および配列に異常は見られなかったが、象牙質において正常な歯牙では見られない様々な異常が観察された。1)象牙質が階層構造を示しており、各階層の接面では象牙細管の連続性が分断されていた。2)一本の象牙細管の太さに均一性がなく、場所によっては複数の象牙細管が融合していた。3)象牙質中に、細胞を埋入している空洞が点在しており、おのおの空洞は細い突起で連結していた。 抜歯後の歯髄から歯髄由来幹細胞株を確立し、多分化能について検討を行った。間葉系幹細胞の表面マーカーであるCD105,CD73,SSEA4,Oct4の発現について検討したところ、歯牙種を有している症例から確立した歯髄由来幹細胞では、正常の歯牙の歯髄から確立した歯髄幹細胞と比較して、これらのマーカーの発現が有意に多いことが判明した。in vivoおよびin vivoにおける骨誘導実験では、歯牙種を有している症例から確立した歯髄由来幹細胞の方が、正常の歯牙の歯髄から確立した歯髄幹細胞より、骨分化能が高いことが判明した。 これらの症例における異常に関して候補遺伝子を明らかにするため、シークエンサーおよびCGH array解析を行った所、特定の遺伝子に変異が確認された。 以上の結果から、これらの症例における歯牙種の発生と歯牙の構造異常は、特定の遺伝子によって引き起こされていることが示唆された。
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