研究課題
挑戦的萌芽研究
組織内に存在する幹細胞を応用した再生研究が、歯科医学研究の中でも注目を集めている。組織障害や損傷部に幹細胞を用いた治療を考えた場合、患部に応用した幹細胞が必要な細胞集団に分化し、元の組織へ再構築することが現在の再生療法である。しかしながら、組織修復後に再度何らかの障害が生じた場合には、新たに幹細胞を調整し再注入する必要があると考えられる。本年度はマウス間葉系幹細胞の細胞株であるC3H10T1/2細胞に、幹細胞誘導薬剤BIO(GSK3beta inhibitor IX)を添加(2 uM)し実験を行った。BIOを添加すると線維芽細胞様形態をしていたC3H10T1/2細胞は、より細長い紡錘形の細胞形態へと変化した。また、幹細胞マーカーであるNanog, Oct3/4などの発現が増強した。このことから、マウスの組織から得られた初代培養細胞に幹細胞誘導薬剤BIOを添加することにより、幹細胞の性質を保持した細胞群を効率に作成できる可能性が考えられた。また、興味深いことに、BIOで処理したC3H10T1/2細胞に、通常では骨芽細胞分化を誘導しない低濃度(20 ng/ml)のBMP2を添加し、骨芽細胞への分化能を評価した。骨芽細胞分化の指標は、アルカリフォスファターゼ活性を指標とした。BIO単独および低濃度のBMP-2を添加した細胞群では、細胞のALP活性は有意に増加しなかった。一方、BIOで処理をした細胞群に低濃度のBMP-2を添加した細胞群のALP活性が強力に誘導された。このことから、骨芽細胞以外にも軟骨、脂肪、線維芽細胞への分化能を有するC3H10T1/2細胞がBIOで処理されたことにより、より効率よく分化方向の決定が行われた事が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
マウス多能性間葉系幹細胞であるC3H10T1/2細胞は、骨芽細胞、軟骨細胞、線維芽細胞、脂肪細胞などに分化能を有する。この細胞に、幹細胞誘導剤であるBIOを添加することにより、幹細胞マーカー発現が上昇した。この知見は、臨床応用を考えた場合、少量の細胞ソースから、効率に幹細胞誘導を実現化する手法として極めて有用であると考える。初年度で、このような知見を得たことから、本研究の進展は順調であると判断する。
1年目の研究により、マウス多能性間葉系幹細胞であるC3H10T1/2細胞は、幹細胞誘導剤であるBIOを添加することにより、より幹細胞され、骨芽細胞への分化誘導効率も、劇的に上昇した。この手法が普遍的であるか否かを本年度はマウス歯胚より調整したマウス間葉細胞およびマウス歯髄幹細胞を用いて検討する。未分化状態の評価の為に、あらかじめ薬剤誘導型歯髄幹細胞にOct3/4 およびNanog プロモーターGFP 発現ベクターを遺伝し導入し、未分化状態が維持されている場合には、GFP 陽性となり、分化した細胞はGFP 陰性になるような遺伝子操作をあらかじめ行っておく。通常の幹細胞の培養においては、幹細胞誘導培地を除去し、細胞濃度が高くなるにつれ、オリジナルの歯髄細胞に分化することから、血管内皮細胞との混合培養において、どの程度未分化状態が維持できるか、その最適条件を検討する。
本年度より、マウス歯髄幹細胞、血管内細胞を培養を開始する。マウス歯髄幹細胞は我々の研究室に細胞ストックあるが血管内皮細胞は新たに購入する必要がある。また、これらの細胞培養を行うため、マトリジェルや培養液などを新たに調達する必要がある。また、幹細胞化をリアルタイムで可視化するため、Oct3/4 プロモーターGFP 発現ベクターを購入する。細胞に遺伝子導入するためにエレクトロポレーションを用いるので、そのための試薬を購入する。
すべて 2012
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件)
Biochemical and Biophysical Research Communications
巻: 422(4) ページ: 627-632
10.1016/j.bbrc.2012.05.039
Cell and Tissue Research
巻: 350(1) ページ: 95-107
10.1007/s00441-012-1459-8