本研究はブラッシングによらない新しい口腔内清掃システムの構築に必要な殺菌剤の開発を目的とし活性酸素発生能を有する高分子体を作製しようとするものである.活性酸素は不安定なため口腔内の細菌を死滅させるには活性酸素を一定期間保持する必要がある.申請者はまずラジカルを安定化あるいは活性酸素によりラジカル化される側鎖を有するアミノ酸の合成を検討したが,期待した程の保持効果を示すアミノ酸誘導体を見いだすことはできなかった.そこで本年度は種々高分子化合物を検討した結果.グルコース重合体が良好な保持能力を示した(以下殺菌性高分子体と略).しかしこの殺菌性高分子体は湿気を吸収することで容易に溶解し殺菌能を消失する.従って殺菌性高分子体が口腔内で一定期間その殺菌能を保持するには担体との複合体形成が必要である.どのような担体が口腔内で使用する上で適しているか様々な歯科材料を検討し,光重合レジンとの複合体が最も安定的に殺菌活性を保持していた. さらに有機性スピントラップ剤に属するメラノイジンがラジカルな活性酸素の安定化に寄与することが報告されているので,殺菌性高分子体の殺菌活性安定化にどのような影響を与えるか検討した.その結果グルコースとヒスチジンからMaillard反応により合成されるメラノイジンと殺菌性高分子体を組み込んだ光重合レジンが口腔内と同能の条件下で対照群も比べ明らかに長期間殺菌活性を維持した. 本研究から(1)グルコース重合体がラジカルな活性酸素の保持に適性を示すこと,(2)口腔内で殺菌性高分子体を保持するには光重合レジンに組み込むことが効果的であること,(3)グルコースとヒスチジンからMaillard反応で合成されるメラノイジンは殺菌性高分子体の殺菌活性を安定化する作用があること,が明らかになった. 今後は人で使用可能な殺菌性高分子体を組み込んだ装置の開発に着手する予定である.
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