本研究は,嚥下中の各相において,体幹を保持する筋肉群と下肢の骨格筋がどのような働きをしているかを詳細に測定・検討し,これらの筋群の機能異常が嚥下障害の発症の因子となるかを解析することを目的としている.さらに体幹筋群の働きが減少している患者の機能補助のために介護用の下肢のロボットスーツを装着させ,患者の嚥下機能が改善するかを検討し,臨床応用の可能性について検討する発展的研究目的もある.これまでの研究から,体幹を保持する下肢の筋肉群と合わせて,足底の機能および感覚入力が極めて重要な因子であることが明らかになってきた.そこで1)座位(足底が設置する体位),2)端座位(足底が接地しない体位),3)立位の3条件の体位での嚥下中の各機能を解析した.嚥下中に評価する項目としては,オトガイ舌筋群,前脛骨筋群,腹直筋群,脊柱起立筋群,胸鎖乳突筋群の筋電図を測定・解析し,嚥下中の呼吸機能に関しては,呼吸相と嚥下相の協調的同期を鼻マスクからの呼吸曲線により解析した.食物は,1)固形物(ビーフジャーキー),2)柔らかい食形態(ゼリー),3)液体(飲料水)の3つとして,それぞれの体位(座位,端座位,立位)で,食物,体位をそれぞれランダム化して,測定を行った,被験者は健康成人被験者とし,研究同意書を取得の上,研究を行った,それぞれの筋群の最大収縮量を記録して,それに対する変化量で筋活動性を評価した.その結果,足底が接地しない端座位では,前脛骨筋群の筋活動性が弱まり,逆に体幹の保持のために腹直筋群,脊柱起立筋群,胸鎖乳突筋群の活動性が増加した.さらに呼吸補助筋である胸鎖乳突筋の過度な緊張から,嚥下中の呼吸協調のタイミングにも影響与えることが明らかになった.
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