本研究の目的は、脳の可塑性に有効な手浴方法の開発とその有効性を脳生理学的・心理物理学的に検証する事にある。今年度は介護老人保健施設で脳卒中後片麻痺のある利用者6名を被験者とし、手浴施行者1名・補助者2名で実施した。また、本実験では手の運動時の脳波を測定するため簡易脳波計を用いた。 実施は本研究者ら3名の勤務時間外で、被験者が夕食を済ませた17:50~18:20の時刻に開始し、利用者の体調により4~7日間の日数で行った。内女性1名は、脳波計やパソコンを設置した実験室に車椅子で入室した時点で「怖い」と言い、女性他1名も緊張が強く共に収縮期血圧が170~180mmHg台に上昇したため実験開始前に中止、被験者から外れていただいた。残り4名中1名を除き3名も実験開始前に各々の通常血圧範囲より高くなるか低くなる等の変動があった。 平成25年度の男性患者2名の実験では、看護衣の施行者1名、開始時刻13:30頃、脳波計は使用せず手関節と手指関節角度計測のみで2~3週間実施し、今回の様な血圧の変動はなかった。高齢者にとって簡易脳波計とは言え、電極やそのリード線、夕食後という開始時刻、実験着を着た本研究者ら3名の存在に加え、この3名中2名と面識がない等の実験条件が今回の血圧変動に影響した可能性が考えられる。脳波については、手浴実施前後で緊張度に変化はない傾向にあった。 実験を継続できた被験者4名は、脳の障害部が異なっているため下垂手で手指の痙縮がひどい等麻痺手の状態も様々で被験者に合わせて手浴の手順を変える必要がある事がわかった。顕著に本手浴効果があった利用者は2名で、下垂手・手指痙縮高度な1名は両手がスムーズに組めるようになり、手の掌握運動ができなかった1名は、親指先端からの第1関節屈曲伸展運動と他4指全て第1関節は伸びた状態であったが、第2・第3関節は屈曲して掌握運動ができるようになった。
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