質的研究で最も重要であるテクスト解釈の科学的理解のために、構造構成主義の理路に基づき、テクストの主観的解釈の問題について、L. Wittgensteinの言語に関する論考から考察を開始した。その後、科学的言語学であるF. Saussureの一般言語学、言語学に演繹的方法を初めて導入した N. Chomskyによる普遍文法、生成文法に関する文献的検討を行い、国際学会で報告してきた。 国内学会や国際学会における報告時には、多くの医療関係者、看護関係者及び哲学者などの専門家からテクスト解釈の問題点について情報を収集した。これらの結果をもとにして、心脳構造における言語システムの仮説的モデルを考察した。このときテクスト解釈に関しては、町田健(2011、言語構造基礎論、勁草書房)による言語構造基礎論に基づく文構造の構成要素を考慮することで、グラウンデッド・セオリー・アプローチでのプロパティとディメンションの発見が容易になり、ある程度の定式化が可能ではないかと考えられた。 異なる言語であっても、いくつかの中核となる言葉は共通であり還元不可能であるというA. Wierzbickaによる自然意味論メタ言語の視点を導入することで、言語の概念的原子要素を用いたテクスト解釈の新たな方法論の可能性が考えられた。 テクスト解釈の方法論に関する科学的研究の推進には、今後は脳科学の領域からのアプローチが重要である点も明らかに思われた。また、あまり日本の看護分野では紹介されていないのだが、米国の数学者であり哲学者でもあるW. Quineの言語哲学の研究成果が、今後のテクスト解釈の科学的研究上で有用ではないかと考えられた。研究成果の一部については、ホームページ上に公表している。
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