研究課題/領域番号 |
24659989
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
山脇 京子 高知大学, 教育研究部医療学系, 准教授 (10516165)
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研究分担者 |
溝渕 俊二 高知大学, 教育研究部医療学系, 教授 (00209785)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | アトピー性皮膚炎 / ユズ種子オイル / 症状緩和効果 |
研究概要 |
アトピー性皮膚炎は、痒みを伴う湿疹性変化を主な病変とし、軽快と増悪を繰り返す皮膚の炎症性疾患である。現段階で、アトピー性皮膚炎を完治させる治療方法は無い。アトピー性皮膚炎の主要な発症機序としては、皮膚のバリア機能障害と免疫機構の異常の二つが挙げられる。バリア機能障害により水分保持能が低下し、外部からの刺激、たとえばアレルゲンや細菌が侵入しやすい状態になっており、皮膚に炎症が起こりやすくなっている。また、免疫機構の異常としては、ヘルパーT細胞のアンバランス、つまり急性期ではTh1/Th2の比が上昇し、慢性期では低下することが原因と考えられている。治療の基本は、痒みのコントロールが中心となっている。皮膚炎を抑えるための局所療法としては、抗ヒスタミン軟膏、ステロイド軟膏、免疫抑制効果を有するタクロリムス軟膏の塗布が行われているが、どの薬剤にも副作用があるため、長期間の使用は難しい。 他方、ユズは日本人が千年以上の食経験を有する素材であることに加え、我々の安全性試験からもユズ種子オイルの長期使用が可能であると考えられる。また、その効果は、マウス肥満細胞からのヒスタミン放出阻害(痒みの軽減の可能性)、正常皮膚線維芽細胞の増殖促進(病巣の再生促進の可能性)、活性酸素消去能(炎症の軽減の可能性)と多岐にわたっており、その結果、他種類の塗布剤の併用と同等以上の効果を発揮する可能性がある。 本研究の目標は、アトピー性皮膚炎モデルマウスを用いて、ユズ種子オイルの塗布によるアトピー性皮膚炎に対する効果を検証し、ヒト介入試験を行うことである。そして我々の最終目的は、ユズ種子オイルを用いたアトピー性皮膚炎症状緩和塗布剤の開発である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アトピー性皮膚炎モデルマウスを用い、患部に未精製と蒸留精製したユズ種子オイルを塗布し、その効果の検証を行った。Nc/Ngaマウスにダニ抗原軟膏を背部及び耳介に塗布し、アトピー性皮膚炎モデルマウスを作製した。そのマウスに、ダニ軟膏による惹起と同時に、試験標品塗布群、無塗布群を各n=5で設定し、経時的に観察を行った。試験期間は、試験標品塗布後28日間とした。効果は、皮膚スコア、患部腫脹、血清抗原特異的IgE量、患部のヒスタミン量など多角的に評価を行った。 その結果、試験終了時に、有意にアトピー性皮膚炎症状の緩和効果が確認された。ネガティブコントロールのオリーブオイル塗布では、患部の明らかな肥厚、痒掻傷からの出血が認められた。それに対し、ユズ種子オイルの未精製群ではわずかな肥厚、出血が認められたが、明らかに症状は軽減していた。最も効果があったのは精製群で、わずかな肥厚だけで、出血は認められなかった。皮膚スコア、耳介厚、血清総IgE量、耳介ヒスタミン量とも、ユズ種子オイル群が有意に良好な結果であった。 アトピー性皮膚炎モデルマウスに対してユズ種子オイルの塗布が効果的であった結果を踏まえて、ヒト介入試験に移行した。平成24年11月20日に医学部倫理委員会で承認され、臨床試験を開始した。オイル塗布前後に本研究費で購入したカメラで写真撮影を行い、皮膚状態をスコア化し評価をしている。また、ストレス評価をGHQ28で、QOL評価をskindex-16で行っている。 本研究成果を、第24回日本アレルギー学会春季臨床大会(平成24年5月13日;大阪国際会議場)で発表した。さらに、2013年8月22~27日、ミラノで開催される『15th International Congress of Immunology』に演題が受理された。
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今後の研究の推進方策 |
細胞試験、動物実験により、ユズ種子オイルのアトピー性皮膚炎症状緩和効果が検証されたため、次にヒト皮膚での効果の検証を行う。ヒト皮膚での臨床試験は、すでに倫理委員会での承認を得て、現在数名に塗布を開始している。今後は、目標件数30名をめざし、介入試験を継続する。アトピー性皮膚炎に加え、同じヒスタミンで掻痒が引き起こされる老人性乾皮症も対象に加える。現在実施中のヒト介入試験では、患部の症状の変化に加え、患者のストレスに対する効果も検証する。アトピー症状の増悪には患者の社会的ストレスが要因の一つとなることが知られている。また、アトピー症状が増悪する事が更なるストレスとなるため、ストレスの観点から悪循環を繰り返す。動物実験では症状の評価を客観的に評価する事ができる半面、精神面の評価を行うことは難しい。そこで、ヒトで臨床症状に加え精神面に及ぼす効果を併せて検証する。ユズ種子オイルを患部に朝・夕の1日2回、4週間塗布してもらい、臨床評価は皮膚症状の変化と被験者の試験施行前後の写真撮影で行い、皮膚の状態をスコア化し評価を行う。精神面の評価は、GHQ28とskindex-16で行うとともに、有害事象の有無の検証を施行する。 ヒト介入試験で副作用が無い事を確認後、次段階のヒト介入試験を計画している。次段階では、患者から皮膚サンプルや血液サンプルを採取し、臨床、精神的な両領域で、客観的評価を行う。臨床面の評価にはサイトカイン量やIgE量、病巣組織像を指標に、ストレスにはアンケートに加え血中コルチコイド量を指標として用いる計画である。昨年度得られたマウスの血液サンプルを用い、ヒトでの評価方法の確立を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
ヒト介入試験で被験者に使用していただくための、ユズ種子オイルを購入する必要がある。皮膚炎患部にはブドウ球菌など雑菌が繁殖している。使用時に不潔にならないように、可能な限り小さな個包装とし、かつ被験者が使用しやすい小瓶での供給を計画している。ユズ種子オイル準備のための経費として10万円を予定している。 次段階のヒト介入試験を行うための準備にも経費を要する。ヒトでのサンプルで評価を行うための条件付けをマウスのサンプルを用いて行う計画である。マウスアトピー性皮膚炎発症時の血液サンプル及び病巣組織は、昨年度のマウス実験の際に採取済みである。血液サンプルは-80℃で組織サンプルはホルマリン固定を施し保存中で、本年度の試験に用いる事が出来る。血液サンプルはサイトカイン量とIgE量をELISA法で測定し、またストレスの評価に用いるコルチコイド量はEIA法で測定する。組織はパラフィン包埋後、評価に適した染色方法を検討する。これらの実験に用いる、試薬、消耗器具の購入や、情報収集のために必須な図書の購入に30万円程度必要となる。 さらに、2年間の研究期間中に得られたデータを、2013年8月22~27日、ミラノで開催される『15th International Congress Immunology』で発表すべく準備を進めている。すでに、アブストラクトの審査は終了しており、アクセプトの通知が来ている。この学会発表のために、ポスター作製費や外国旅費として60万円程度必要となる。
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