本研究は、炎症性腸疾患患者が悪化を避けるために日々の療養生活のなかで“無理はしない”療養法を獲得するプロセスを明らかにすることを目的とし、文献検討とグラウンデッド・セオリー・アプローチを用いたデータ収集および分析を実施した。 初年度は文献検討により、文献的に“無理はしない”という概念を明確にし、“無理はしない”を「患者自身が病気の悪化を避けるために、生活の場や療養において、知識や経験、自分の感覚をもとに、体調や周囲の状況、その後に予想される状況を見極め、何かを調整したり工夫すること」と定義づけた。また、研究計画を精錬し、データ収集の信憑性を高めるためにプレインタビューを実施した。 2年目は半構成的インタビューによるデータ収集と分析を開始し、専門家にスーパーバイズを得ながら丁寧に分析を進めた。しかし、プロパティとディメンションを用いた分析に時間を要したため、期間延長承認を申請することとなった。3年目(最終年度)は引き続き、グラウンデッド・セオリー・アプローチの継続比較分析に則りデータ収集と分析を試みたが、まだ途上である。 現在、炎症性腸疾患であるクローン病と潰瘍性大腸炎の患者のデータ分析から2つのカテゴリー(現象)が抽出され、プロパティとディメンションを手掛かりにしたカテゴリー関連図とそこを流れるストーリーラインを作成している。クローン病では「我慢と食べることの照らし合わせ」、潰瘍性大腸炎では「緩やかに習慣づく生活」という現象である。 補助事業期間は終了したが、引き続き理論的サンプリングによるデータ収集および分析を継続し、同じ現象のカテゴリー関連図を重ねてカテゴリー関連統合図を作成、“無理はしない”という現象全体をあらわすカテゴリーを抽出(理論生成)する予定である。
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