研究課題/領域番号 |
24659998
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
前田 留美 東京医科歯科大学, 大学院保健衛生学研究科, 特任助教 (60341971)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 小児がん / 造血幹細胞移植 / 皮膚障害 / スキンケア / 皮膚表面水分蒸散量 / 皮膚水分量 / 皮脂量 |
研究概要 |
当初計画では、皮膚水分量・皮脂量・皮膚表面水分蒸散量・pH値の4項目を計測する皮膚計測機器を購入する予定であったが、計測項目を見直す目的で、再度文献検討を行った。本研究は皮膚の状態を「乾燥度」と「バリア機能」の2側面から評価することを目的としており、乾燥度は皮膚水分量・皮脂量を、バリア機能は皮膚表面水分蒸散量・pH値を指標とする予定であった。和文約20、英文約30の文献検討を行ったところ、化学療法によって皮膚水分量・皮脂量は変化するが、pH値は概ね一定であることを示唆する文献が見られた。このため、皮膚バリア機能は表面水分蒸散量のみを指標として用い、その他の計測値については当初予定していた計画に沿ってデータ収集を開始することとした。 また、計測機器メーカーの主催するセミナーに参加し、計測方法およびデータの統計処理方法について講義を受けた。計測値は測定環境の温・湿度や計測方法、計測時間、日常生活活動等に影響を受けるため、データ収集時に条件を細かく設定する必要があることがわかった。計測時間、計測部位等の詳細な計測方法について研究協力者と相談し、より誤差が少ないデータ収集を実施するための準備を整えた。これらの検討および準備を踏まえて東京医科歯科大学倫理審査を受け、承認を受けている。 さらに共同研究者として参加した、小児がん患者、骨腫瘍患者、成人がん患者の長期フォローアップについての研究・論文作成を通じ、特に造血幹細胞移植による皮膚障害の長期的な影響について考察し、スキンケア看護指標に必要な要素を検討した。 また、本科研の前段階の研究として実施した、造血幹細胞移植を受ける小児がん患者の皮膚障害を写真撮影し、経時的な変化を記録した事例を、論文投稿するため準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
文献検討および計測方法の検討により、当初の研究計画よりデータ収集の開始時期に遅れが生じた。 しかし24年度に実施予定としていた、対照群となる「健康な子どもの皮膚データ収集」は、計測方法の検討を行った結果、計測時の温・湿度の影響を大きく受けること、計測時には約20分間室内にとどまり、温度・湿度に対する皮膚の順化が必要なこと、ひとりあたりの計測時間が3~5分程度かかるため、一度に複数名の対象者のデータ収集を行うことが難しいこと、対象者の運動および発汗等の身体的な条件により、計測時の誤差が大きくなることが予想された。このため対照群のデータ収集は困難かつ誤差が大きいことが予測されたため、健康な小児の皮膚の標準的な皮膚の計測値は機器メーカーより提供を受けることとし、対照群のデータ収集は行わないこととした。 これにより当初の計画より遅れてはいるものの、対象者のデータ収集を早い時期に開始することが可能となった。加えて文献検討およびセミナー参加を踏まえてデータ収集方法を詳細に決定したことで、より誤差の少ないデータ収集が可能となったため、より精度の高いデータが得られることが予想される。 また、本研究では大量化学療法および造血幹細胞移植を受ける小児の皮膚障害に着目しているため、対象を小児がん患者に限定せず、同様の治療を受ける免疫疾患患者へも対象を拡大することを検討している。このため研究協力施設においてより多くの研究対象者をリクルートすることが可能になると考えられる。 以上より、データ収集開始時期は当初の予定よりも遅延したものの、対象者数の増加、収集データの精度の向上が予想できるため、達成度は概ね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では大量化学療法・造血幹細胞移植を受ける患者の皮膚障害を検討することを目的としているため、対象者を小児がん患者に限定せず、同様の治療を受ける免疫疾患患者にも拡大し、さらに多くの皮膚計測値データを収集する。 同時に対象者ごとに実施したスキンケア、および看護師による皮膚の状態の評価を記録する。収集したデータは、大量化学療法・造血幹細胞移植後の皮膚GVHDによって生じる皮膚の乾燥およびバリア機能の破綻に着目して分析することとし、対象者の事例ごとに、皮膚データ計測値、写真、対象者の受ける治療内容、全身状態、看護師による皮膚の評価、実施したスキンケアの内容を経時的にまとめる。これらのデータをもとに乾燥およびバリア機能の変化の傾向を見出し、看護指標に必要な要素を検討する。看護指標は皮膚の状態の変化をあらかじめ予測し、指標を用いて皮膚の状態を評価し、予測される皮膚障害に対して予防的なスキンケアが実施できることを念頭に置いて作成する。 また、皮膚の乾燥およびバリア機能の変化の傾向と看護師による皮膚症状の観察、写真をもとに、皮膚の状態に応じたスキンケア方法を検討する。スキンケアは直接ケアにかかわる研究協力施設の病棟看護師、皮膚・排泄ケア認定看護師、がん看護専門看護師、小児がん患者のケアに精通した小児看護専門看護師、小児科医、皮膚科医等の専門家によるスーパーバイズを受け、考案する。 現在研究協力施設において大量化学療法・造血幹細胞移植を受ける患者は年間5~10例あり、これらの対象者へのデータ収集を基に看護指標の作成およびスキンケアの考案を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
2013年9月に香港において開催される「International Society of Paediatric Oncology(国際小児がん学会:SIOP)に参加し、化学療法・造血幹細胞移植を受ける患者の皮膚障害について情報収集を行う。SIOPは医師・看護師・コメディカルを対象とした学会であり、看護のみならず医学的な見地からもがん治療による皮膚障害についての知見を得ることが可能であると考えられる。また学会において大量化学療法・造血幹細胞移植、小児がん患者の治療等に関連するセミナー、ワークショップが開催されることが多いため、これらへの参加を通じて情報収集を行うこと、諸外国の研究者との交流を通じて研究への示唆を得ることを参加目的とする。 また、2013年12月に福岡において開催される「日本小児がん看護学会」において、データ収集を行った事例を報告する予定である。当該学会は日本小児血液・がん学会と同時開催されるため、看護およびスキンケアに関連する情報のみならず、医学的な見地からも皮膚障害に関連する情報収集を行うことができると期待される。次年度の研究費使用計画は、主に2学会への参加を通じて最新の知見を得ること、およびこれまでの研究成果の中間報告に充てることを中心としたいと考える。 その他の使用計画として、計測機器及び消耗品に関連する物品の購入があるが、次年度は消耗品であるセンサープローブ用のフィルム数千円程度が見込まれるのみである。他に関連する和書・洋書等の購入、文具等の消耗品に充てることを計画している。
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