研究課題/領域番号 |
24659998
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
前田 留美 東京医科歯科大学, 大学院保健衛生学研究科, 特任助教 (60341971)
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キーワード | 小児がん / 造血幹細胞移植 / 皮膚障害 / スキンケア / 皮膚表面水分蒸散量 / 皮膚水分量 / 皮脂量 / GVHD |
研究概要 |
研究協力施設において2事例を得て、1事例につき3~6ヶ月間、皮膚水分量・皮脂量・皮膚表面水分蒸散量の計測を行った。2事例とも治療上の理由で2度の移植を実施し、当初の計測予定期間(60日程度)よりも長期間の計測をおこなった。また、2事例ともGVHD皮膚障害を発症したため、GVHDによる皮膚への影響を検討することができたと考える。 平行してスキンケア効果を測定する際に必要となる、皮膚障害の評価指標の作成に着手した。既存のがん治療による皮膚障害の評価指標は、米国国立がん研究所で作成されたCommon Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE)があるものの、看護師がCTCAEを用いて皮膚障害をはじめとした副作用症状を評価した既存研究は見当たらず、評価者による評価グレードの決定に差があることが報告されていた。このため、皮膚計測データに基づいたスキンケア指標作成と平行し、CTCAEを用いた皮膚障害の評価とその影響要因を検討し、最終的なスキンケア看護指標を作成することとした。 CTCAEは皮膚障害の評価項目に「日常生活動作の制限」「心理社会的影響」を含めており、看護師はこれらの項目について患者の皮膚の症状をはじめとした情報を元に「臨床判断」を行い、最終的に皮膚障害を評価するグレードを決定していると考えられた。そこで「Tannerの臨床判断モデル」を用いて、看護師の皮膚障害に対する臨床判断について質問紙調査を行うこととした。 また、香港で行われ「国際小児がん学会(SIOP)」のグループミーティングに参加してアジア諸国の小児がん患者へのスキンケアについて情報を得るとともに、英国の小児がん看護研究者にコンサルテーションを依頼し、臨床判断モデルの使用と質問紙調査について助言を受けた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究対象者を小児がん患者に限定せず、同様に造血幹細胞移植を受け、皮膚障害発症のリスクを有する血液・免疫疾患患者へと拡大した。これにより年間5~7事例を得る予定であったが、治療・療養上の理由により、対象者数が予定よりも少なかった。しかし計測データを得た2事例は、クリーンルーム入室の長期化により、計画よりも長い3ヶ月~6ヶ月間の計測を行ったこと、それぞれ2回の移植を実施したことにより、移植による皮膚への影響を検討することは可能と考える。皮膚計測データは継続して収集する予定であり、対象者への侵襲性が皆無で、対象者・家族が計測データに興味を示す場合もあるため、今後も研究への協力は得られやすいのではないかと考えられる。 また、文献検討により看護師が用いるがん患者の皮膚障害の評価指標は、一部の皮膚・排泄ケア認定看護師等によりCTCAEの使用が推奨されているものの、臨床ではほとんど使用されていないこと、評価者によって評価が異なること、評価が異なる原因として、看護師の「臨床判断」が影響していることが明らかになった。さらに臨床判断には対象者の症状とともに、看護師自身の知識、経験、価値観が影響していることが予測されたため、これらの側面から看護師の皮膚障害に対する臨床判断に影響した要因を明らかにし、看護指標作成の参考にする方向で検討している。 以上より、対象となる事例は少ないものの、造血幹細胞移植による皮膚への影響を検討するデータは得られつつあること、さらに看護師の皮膚障害に対する臨床判断および影響要因看護指標に取り入れることによって、スキンケア看護指標を作成することが可能になると考えられる。よって達成度は概ね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き研究協力施設において造血幹細胞移植を受ける小児がん、血液・免疫疾患患者を対象に、皮膚の計測データを収集し、更なるデータの蓄積をはかる。さらに事例ごとに皮膚の乾燥およびバリア機能の変化を比較する。移植による皮膚への影響や、移植後の乾燥・皮膚障害の傾向について明らかにする。これにより、乾燥・皮膚の脆弱化を予防することを目的とした効果的なスキンケア方法及びケア提供時期が明らかになると考えられる。 加えて看護師の皮膚障害に対する臨床判断と影響要因を明らかにする目的で、造血幹細胞移植患者の看護に携わる看護師、がん看護専門看護師、小児看護専門看護師、皮膚・排泄ケア認定看護師、がん化学療法認定看護師を対象とした調査を実施する。調査は移植後皮膚障害を生じた事例を提示し、事例に対する臨床判断、文献検討により明らかにされた臨床判断に関連する要因について、回答を得る。これらの回答を統計的に分析し、従来皮膚障害を評価する際に生じていた「評価者による差」の解消を図るための示唆を得る。 以上より、事例の経過、皮膚の乾燥およびバリア機能の経時的変化とその傾向をもとに、皮膚の状態に応じた予防または症状緩和を目的としたスキンケアプランを作成する。加えて、皮膚データを収集した事例を通じて得た対象者が訴える症状、事例を看護した看護師の目視による皮膚障害の評価、調査により得られた看護師の臨床判断の傾向を用いて、皮膚障害の評価指標を作成する。スキンケアプラン、皮膚障害の評価指標をもってスキンケア看護指標とする。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初計画では皮膚計測器に使用する消耗品、通信費等を計上していたが、予想よりも交換頻度が少なく済んだこと、通信費は使用しなかったことがあげられる。また、国内出張のための旅費が、割引運賃による航空券購入等により、予定より少なく済んだ。さらにデータ入力・整理のための人件費を削減し、筆耕翻訳料を次年度へ持ち越したことが上げられる。 スキンケア評価指標に取り入れることを目的とし、看護師の皮膚障害に対する臨床判断とその影響要因についての質問紙調査を行う。造血幹細胞移植を実施する172施設に勤務する看護師、専門看護師、認定看護師合計2,200名を対象とし、事例を提示し、臨床判断の内容および影響要因について回答を得る。調査に伴う質問紙印刷費用・郵送費・データ入力のための人件費、海外学術誌へ掲載するための筆耕・翻訳料として支出する。 同時に引き続いて皮膚の計測データを収集するため、計測機器の消耗品であるセンサープローブ用のフィルム等を購入する。購入価格は数千円程度である。皮膚計測データを分析し、2014年11月に岡山で開催される日本小児がん看護学会で発表する予定であるため、この参加費に充当する。この他、関連する和書・洋書等の購入、文具等の消耗品に当てることを計画している。
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