本研究は,乳児のシグナルに対する養育者と乳児養育経験のない親準備期にある人の感情状態を客観的に明らかにすることを目的としている(研究Ⅰ)。生後1年間に親が知覚する乳児の行動を実験室にて再現することで,できるだけ実際に即した実験を目指し計画,実施した。2014年度は5名による実験協力を得,2013年度に実施した対象者3名も含め,主として乳児のシグナルに対する心拍数の分析を行なった。養育経験,乳児音声刺激に対する反応と乳児映像場面の反応の違いなどの可能性が見出され,結果の1部は学会で発表した。しかしながら,対象者数が少なく,現時点で養育経験の有無による明確な違いを見出す成果を得ていない。質問紙データに基づく個別性や実験刺激である乳児シグナルとの応答性などについて詳細な検討が必要で,取り組んでいるところである。実験基盤は確立しており,2015年度も実験を継続し,実験データを集積していきたい。
研究Ⅱでは,体験型親準備教育プログラム構築につなげるために,1名の協力を得て予備実験を行った。乳児シグナル音声に対する反応測定実験を研究Ⅰに準じて行った(フェーズ1)後,モニタリングで得られた心拍波形を対象者が確認した(フェーズ2)。その後,スピーカーを装着したベビー人形を抱っこした状態で乳児シグナルを発し,同時に身体生理的データを測定した。フェーズ1の泣き声に対する心拍数はベースライン値より高値だったが,フェーズ3では前半変動がみられたものの後半は安定していた。フェーズ2でのフィードバック体験,フェーズ3のベビー人形抱っこでの触覚,視覚体験が付加されたことが結果に影響していた可能性が見出されたが,1対象者の結果である。フィードバック方法など予備実験で見出された課題もふまえ,実験方法を詳察するとともに対象者数を増やし,よりリアリティのある体験型親準備教育プログラムに発展させていきたい。
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