研究課題/領域番号 |
24660029
|
研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
佐藤 珠美 佐賀大学, 医学部, 教授 (50274600)
|
研究分担者 |
エレーラ ルルデス 日本赤十字九州国際看護大学, 看護学部, 准教授 (40597720)
|
キーワード | 産後腱鞘炎 / 育児動作 / 日常生活動作 / 動作解析 |
研究概要 |
【研究1】産後腱鞘炎(手や手首の痛み)の存在率および影響因子を明らかにするために平成25年8月~11月期間にA県5市1町で、乳児の母親876名に無記名調査を行い、526名(有効回答60.0%)を分析対象とした。平均年齢は31.2±5.2歳、初産226名(43.0%)、経産300名(57.0%)であった。平均産後月数は4.4か月(±2.1)、産児数は単胎520名(98.9%)、双胎6名(1.1%)であった。 腱鞘炎の既往は114名21.8%(初産16.4%、経産25.8%)で原因は初産が仕事11.5%、経産は妊娠・出産16.1%と多かった。腱鞘炎以外の手や手首の問題の経験者は18.5%(初産16.9%、経産19.7%)であった。主な内容は痛み(51%)と腫れ(32%)であった。今回の出産に伴う手や手首の痛みの経験者は189名35.9%(初産49%、経産26%)であった。発症時期は産後1~2か月がピークであったが7か月に発症した人もあった。両手ともに痛めた人が41%あり、部位は橈骨部、尺骨部、橈骨手関節が25~40%と多く、拇指関節は10~20%であった。痛みの消失時期は3か月までが33%、4~7か月までが41%、8~11か月までが57%であった。痛みを起こす動作は抱っこなどの育児、家事などであった。痛みに対処した人は71名38%で、内容は湿布の貼付やサポーターの着用で65%を占め、整体・整骨院(20%)、病院受診(15%)となっていた。痛みがあった人のうち腱鞘炎に関する情報を持っていた人は12.4%しかなく、情報が不足もしくはなかった人が85%あった。 【研究2】産後腱鞘炎を悪化させる動作の解析を行うために生後2~5か月の乳児の母親を対象に、産後6か月、9か月の3回の縦断調査(手の機能評価、抱っこの撮影、面接)を行っている。現在26名が登録しており、7名が3回目の調査を完了した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【研究1】産後腱鞘炎の存在率と影響要因に関する横断調査:生後1~11か月の乳児の母親を対象にした後方視による量的調査により、産後腱鞘炎の発症率は先行研究15%よりも多く、研究者らが2010年に実施したパイロット調査の35%とほぼ同程度であった。しかし、今回の調査では初産婦に限れば半数近くあり、産後に手や手首の痛みを訴える人が増えていることが明らかになった。また、これまであまり報告されていなかった手や手首の痛みが発症するピークの時期、その後の経過を推測できるデータを収集できた。初産婦では半数、経産婦では25%の人が痛みを経験していたが半数以上が自然に経過をみており、4割弱の人が湿布やサポーターを中心とした対処を行っていた。 【研究2】産後腱鞘炎を悪化させる動作の解析に関する調査:生後2~3か月の乳児の母親(初産婦)を対象とした対照症例研究(痛みあり、無しの2群)を予定していた。しかし、協力者確保が難しかった。そこで、リクルートの時期を4か月(3~5か月)の乳児健診時にあわせた。また、経産婦のなかに産後腱鞘炎に興味を持ち、研究参加を希望する人が複数あり、複数の子どもの育児による問題などがみられた。これらのことから、生後2~5か月の乳児を持つ初産婦、経産婦を対象とすることとした。そのことで対象の条件に変更があったことから、研究デザインを症例対照研究ではなく、ケース・スタディに変更した。調査で用いた手首の機能評価は整形外科の専門医の助言を得て作成した。手や手首の痛みに影響する動作の撮影条件と分析方法は、連携研究者である人間工学の専門家とプレテストの事例をもとに検討した。これにより、【研究1】で得られた結果の裏付けとなるデータが得られている。
|
今後の研究の推進方策 |
【研究1】産後腱鞘炎の存在率と影響要因に関する横断調査:データ収集と記述統計が完了した。今年度は、詳細な分析を行い、成果を調査協力機関、協力者にフィードバックし意見聴取を行うとともに、国内外の学会で報告し、論文執筆の準備を進める。 【研究2】産後腱鞘炎を悪化させる動作の解析に関する調査:3回の面接調査の完了者(最終は平成26年9月予定)から個別分析を行い、ケース・スタディ(痛みの経過、抱き方の変化、痛みを引き起こす要因、予防や対策の気づきなど)としてまとめ、痛みを起こす人と起こさない人の特徴を記述し、学会発表に向けた準備を進める。 【研究1】【研究2】で得られた質的データの分析を進め、産後腱鞘炎に特異的な尺度の開発に向けた調査票の項目の作成を進め、内容の妥当性についても検討する。また、動作分析、インタビューなどから得られたデータをもとに、予防や介入方法についても検討する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度に研究開発における当事者参加の意義を考慮し、産後の女性の腱鞘炎の経過について後ろ向き調査を行った。平成25年度は、その成果を踏まえて【研究1】産後腱鞘炎の存在率と影響要因に関する横断調査、そして【研究2】産後腱鞘炎を悪化させる動作の解析に関する調査を設計した。【研究1】は調査を完了したが、成果発表はこれからである。また、【研究2】においては、データ取集が平成26年9月まで続く。その結果、未使用額が発生した。 平成26年度は、【研究2】産後腱鞘炎を悪化させる動作の解析に関する調査のための協力者への謝礼、データ入力などの人件費、専門家謝金、文献・図書費、国内外の学会発表日・旅費などに使用する予定である。
|