最終年度の目的は,乳児の母親に,産後3月,6月,9月の観察による手や手首の機能評価と腱鞘炎を誘発する育児動作のビデオ撮影,動作分析である。 結果1:協力者は産後女性26名,平均年齢は32.5歳であった。握力は左20㎏,右21㎏であった。ピンチ力は,左1.9㎏,右2.1㎏であった。上肢機能評価(PRWE-J ,Hand20)は,第1回(2~5か月)が19.5±23.8,22.0±33.4,第2回(6か月)が16.3±20.0,16.6±28.3,第3回(9か月)が12.3±21.4,9.7±17.5であった。診断に用いられるEichhoff’s testの陽性群と陰性群の比較では,PRWE-J得点は第1回39.0±31.0(n=5)vs16.8±22.1(n=19),第2回36.3±20.2(n=8)vs6.7±10.8(n=17),第3回34.4±28.5(n=7)vs4.1±10.3(n=19)であった。Hand20得点は51.3±39.7(n=5)vs4.3±6.6(n=19),34.4±33.7(n=8)vs8.2±21.7(n=17),28.0±25.5(n=7)vs3.0±5.7(n=19)であった。全時点で陽性群が有意に高値を示した。 結果2:母親の育児動作の分析から,抱き上げや抱っこ,沐浴などの動作が,腱鞘炎の引き金となる可能性が高いことが明らかになった。腱鞘炎を発症しなかった母親は,手や手首関節に負担をかけない育児法を行っていた。腱鞘炎を引き起こす因子が取り除くことで,予防や症状緩和ができる可能性が示された。 全体を通して,産後腱鞘炎の発症率が35%以上と高く,握力,QOLが低下していること,育児動作が腱鞘炎の発症や悪化に関連していること,PRWE-J ,Hand20によって産後腱鞘炎の診断が容易であること,指導により腱鞘炎の発症や軽減が可能であることが示された。
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