研究課題/領域番号 |
24660031
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
大内 潤子 北海道大学, 大学院保健科学研究院, 助教 (00571085)
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研究分担者 |
林 裕子 北海道大学, 大学院保健科学研究院, 准教授 (40336409)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 嚥下運動 / 食の好み / 摂食・嚥下障害 / 高齢者 |
研究概要 |
好物を食べると摂食・嚥下運動が向上するのかどうかを脳波や表面筋電図などの生理的指標を用いて検討することが本研究の目的であった。また,本研究のチャレンジ性は,「食の好み」や外界から観察できない嚥下運動をどう定量的に測定するかということであった。そこでまず,運動関連皮質電位の成分の1つである運動準備電位(BP: Bereitschaftspotential)を用いた,食の好みが嚥下運動を促進するかどうかを検討するための予備実験を実施した。運動準備電位は,随意運動開始前1~2秒前に現れる陰性電位であり,運動の準備段階を表すとされている。最初に「食の好み」という変数を操作するための準備として,物性が同じで味に種類があるジュースについて好みにばらつきが出るかどうかを20代の男女7名に事前調査した。結果,好き嫌いの評定にばらつきがなかったのは1名であり,ジュースを用いて「食の好み」の操作は可能であると考えた。それを受けて,液体を嚥下する時の運動準備電位を捉える実験を実施した。冷茶を2mlずつ200回嚥下し,舌骨上筋群の表面筋電図を嚥下運動開始点の指標としてBPを求めた。その結果,明らかなBP成分を確認することが出来なかった。その原因としては,嚥下運動以外にも舌骨上筋群が動いたり,1度に飲む量が少なく一気に飲み込みにくいことなどにより嚥下運動開始点としての精度が悪かったことが考えられた。しかし一方で,飲量が増えると満腹感につながり「食の好み」という変数の操作に影響が出ることも確認された。今後はこれらの問題を再検討し再実験の予定である。また,舌の力を表す舌圧を嚥下運動の指標に加えることを念頭に,20代の若者15名と65歳以上の高齢者21名から舌圧の基礎データを収集し,若者に比べると高齢者のほうが有意に舌圧が低いこと,足底の床への接地の有無による舌圧への影響はないことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
達成度が遅れている理由は,食の好みを反映させた嚥下運動による運動準備電位を捉えることに関して,以下の2つの問題の解決が遅れているためである。問題点の1つ目は,運動準備電位を求めることと「食の好み」を操作することの相反性である。運動準備電位を求めるためには,瞬きなどで使えないデータが存在することを考慮すると最低でも1つの食品につき200回以上の嚥下が必要になるが,試行回数が増えれば増えるほど満腹になり,「食の好み」という変数の影響が満腹感によって相殺されてしまう可能性がある。一方,一度に摂取する量をあまり少なくしては,「食の好み」を反映したデータにはならない。この矛盾を解決できていないことが研究の進度を遅らせている大きな要因である。2つ目はこれに関連して,表面筋電図による運動開始点の精度の低さである。舌骨上筋群の表面筋電図は非侵襲的という利点を持つが,嚥下運動以外にも舌など周辺器官が活動した時にも筋活動が記録されるため,嚥下運動の開始点を特定しにくいという欠点を持つ。間違った開始点はデータをゆがめ,また,開始点が特定されない場合はデータが破棄となり,より多い試行回数が必要となる結果となっている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進策は以下の3点である。1点目に,データの精度を上げ試行回数を減らすために,表面筋電図に加え,嚥下音を運動の開始点の精度を高める指標として新たに導入することである。これまで,舌骨上筋群の表面筋電図が嚥下運動に特化して記録されるわけではないため,その精度に疑問があった。しかし,同時に測定した嚥下音を導入することによって,嚥下運動以外による筋電図を排除することができ,開始点の精度が高まると考えられる。これにより,少ない試行回数でも運動準備電位を捉えることが出来ることが期待される。2点目に,事前の研究参加者のトレーニングの充実である。嚥下運動は随意運動であっても半自動化されており,食品を保持している間にも周辺器官が動いたり,保持するための筋緊張があったりするなど,実験上は雑音となる筋電図が記録されてしまう。これらを出来るだけ排除するために,事前に同意を得た実験参加者に対し,更に十分なトレーニングを実施する予定である。3点目に,運動準備電位以外の指標での嚥下運動の評価を検討することである。舌圧を指標に含める検討を始めたところだが間接的な指標であり,嚥下運動の評価の妥当性を高めるためには複数の指標を用いることが必要である。そこで,新たな指標として,喉頭軟骨の動きを解析した結果を含めることを予定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の未使用額4,200円が発生した経緯は,年度末に国際学会に出席し,その際,ランチョンに参加したため,後日,昼食代を返却したためである。こちらは,平成25年度の国際学会の参加費の一部として使用予定である。 平成25年度請求額60万円の研究費の使用計画は以下の通りである。物品費として計上している20万円については,嚥下音を録音したデータと筋電図を同期させるためのユニットの購入に15万円ほか,被験者が実験中に無駄な筋緊張を起こさず長時間座っていられるための安楽な椅子に3万円,実験に用いる食品に2万円と,実験遂行に必要な物品を購入予定である。また,旅費については,舌圧のデータを発表する予定である大阪で開催する老年看護学会に7万円と,スペインで開催予定のInternational Nursing Research Conferenceに参加するための費用として23万円を予定している。人件費・謝金の5万円については,実験補助者への賃金3万円と実験参加者への謝礼2万円として使用の予定である。
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