研究課題/領域番号 |
24660031
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
大内 潤子 北海道大学, 保健科学研究院, 助教 (00571085)
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研究分担者 |
林 裕子 北海道大学, 保健科学研究院, 准教授 (40336409)
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キーワード | 摂食・嚥下障害 / 高齢者 / 嗜好 / 味覚 |
研究概要 |
好物を食べると摂食・嚥下運動が向上するのかどうかを,生理学的指標を用いて検討することが本研究の目的であった。好物を食べたときと,そうでないものを食べたときの運動準備電位の比較を試みたが,飲む回数が重なるたびに満腹感の増強と味覚刺激への順化が起こり,運動準備電位を指標にするのは困難であった。その結果を受け,甘味という単一の味覚において,その味に対する好みが嚥下に与える影響を2名の健康な成人2人で検討した。10%ショ糖溶液と20%ショ糖溶液,それから水をそれぞれ快適な範囲で最大限速く3回ずつ飲んでもらい,液体を口に含んでから嚥下するまでの嚥下速度と,1回の嚥下当たりの嚥下容量の平均を比較した。いずれの被験者も甘味に対する嗜好の自己評価は最大であった。しかし,ひとりは明らかにショ糖濃度が高いほど嚥下速度,嚥下容量ともに増加した。しかし,もうひとりにおいては,10%ショ糖溶液においてこれらの指標が最も大きい値であった。実験後のインタビューにおいて,甘いほど嚥下が促進していた被験者においては,ショ糖自体への好みがもともと強く,もうひとりはそうではなかったことがわかった。これらのことより,ショ糖への好みの大きさの違いが結果に反映したと考えられた。この結果を受けて,その人の好みがもっと忠実に反映されるように,好みの清涼飲料水,好みに関してニュートラルな清涼飲料水と水を用いて健康な成人2名に対し同じ要領で実験した。しかし,ひとりは好みの飲料でもっとも2つの指標の値が大きくなったが,もうひとりでは水とニュートラルなスポーツ飲料のほうが好みの飲料より,いずれの指標においても値が上回った。実験後のインタビューでは,好きな飲料として選んだものは味が濃く大量には飲めないとのフィードバックがあった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
達成度が遅れている最大の原因は,食物の物性や味覚を統制し交絡因子を統制しつつ,「食の好み」という変数を操作することの困難性であった。単一な味を用いることで味覚の効果を統制できたが,実際の食品において単一の味であるものはほとんどなく,多くのひとの好みを実験条件に反映できなかった。また,液体を用いることで食品の物性は統制できるが,飲料のなかでの好みしか扱えず,その人にとってもっとも好みのものが飲料のなかになければ,好みの効果はあったとしても小さく,実験結果が他の要因の影響を大きく受けていた。このように,この点を克服するための試行錯誤に多くの時間を要していることが達成度の遅れに一番影響を与えていた。加えて,溶液や実験スペースの温度管理が行える場所の確保が校舎の改修により困難であったことも達成度が遅れている一因であった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,実験スペースは確保されたため,そこを用いて,より多くの被験者を募り実験を行う予定である。先の実験の結果では,ショ糖溶液であれ,清涼飲料水であれ,好みの飲料を飲んだときのほうが,嚥下が促進された被験者がいた。そのため,より好みの効果を捉えられるように,より多くの対象者のなかから,その人が強く好んでいるものが飲料のなかにある被験者をさらに選抜し実験を実施する。さらに,嚥下速度と嚥下容量のほかに,生理学的指標として舌骨下筋群の表面筋電図も指標に取り入れる予定である。その結果,健常人での実験で,嚥下に対する好みの効果が示唆された場合は,実際に摂食・嚥下障害を持つ高齢者において,飲料の粘度を調整した上で,同様の実験を実施の予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の未使用額59,388円は,嚥下を評価する指標についての示唆を得るために,実際に摂食・嚥下障害を持つ高齢者が好物を食べる様子を動作分析することを目的に,協力医療機関に出張する予定であったのが,予定期間に対象者がおらず,キャンセルになったためである。 平成26年度請求額40万円の研究費の使用計画は以下の通りである。物品として計上している10万円については実験遂行に必要な食品や電極などの物品を購入する予定である。旅費の20万円については,実験結果の発表を予定している名古屋で開催の日本看護科学学会に7万円,摂食・嚥下障害を持つ高齢者のデータ収集を富山県の協力病院で行うために7万円,台湾で開催予定のEast Asian Forum of Nursing Scholarsに4万円を使用の予定である。国際学会への旅費の不足分は,先述の平成25年度の未使用額を当てる予定である。人件費・謝金として計上している5万円は実験補助者への賃金3万円と実験参加者への謝礼2万円として使用の予定である。
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