本研究は、健康格差社会が叫ばれている中、生活保護受給者の健康およびその支援に焦点をあて研究を行った。 第一の目的である居宅の壮年期生活保護受給者の健康関連QOLに関連する要因について、A県内の居宅の壮年期生活保護受給者765人を対象に健康調査を行った。その結果、彼らの健康関連QOLが低いこと、男女ともうつ病の有無が精神的サマリースコアに関連していること、適切な市町村健康情報の提供、栄養、運動の支援が健康関連QOLの向上に必要と示唆された。これらの分析結果は、学術雑誌に投稿し掲載された。 第二の目的である居宅の壮年期生活保護受給者の健康支援の実態について、A県内27市町村に勤務する市町村保健師を対象に調査を行った。その結果、市町村保健師の約9割が生活保護受給者の支援経験があり、特に精神障害者の家庭訪問や生活保護担当ケースワーカーとの連携経験のある者は8割を超えていた。居宅の生活保護受給者への健康課題の認識について、多いと感じている保健師とそうでない保健師を比較検討した。その結果、壮年期生活保護受給者の健康課題が多いと認識している保健師は、勤務先では、指定都市・中核市および町村に勤務する保健師、民生委員との連携経験のある保健師、受給者の健康ニーズを明らかにする必要があると認識していた保健師であった。一方、保健師の年齢、経験年数等は関連がみられなかった。優先課題が別にある、仕事が忙しいという理由で長年、壮年期生活保護受給者の健康支援の優先度が下がっていた可能性も考えられる。今後、弱者に視点をおいた教育の必要性、市町村保健師の力量を高めるための支援の必要性が示唆された。 市町村保健師に関する研究成果については、一部学会発表を行っており、論文は投稿中の段階である。また、本研究全体の報告書を作成し、A県内各社会福祉事務所、市町村等関係機関あて報告を行った。
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