研究課題/領域番号 |
24680022
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
吉川 雄一郎 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (60418530)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 知能ロボット / ヒューマンロボットインタラクション / 同調 / 陪席ロボット / 遠隔対話 |
研究実績の概要 |
平成26年度では,非言語と言語の両方のモダリティを考慮してロボットの認知的一体化に基づく対話システムの実装を進め,評価するとともに,遠隔対話ロボットを用いた自閉症スペクトラム障害(ASD)児のコミュニケーション療育への応用可能性の評価に取り組んだ. 認知的一体化に基づく対話システムに関する研究では,前年度から取り組んでいる,ロボットを遠隔操作者の端末とした遠隔対話システムに,陪席者としてもう一台のロボットを導入した複数ロボットによる遠隔対話システムの評価に取り組んだ.実験により,ロボット間の非言語的相互作用を導入することで,端末ロボットの視線の印象とともに,対話における遠隔操作者の存在感を増強できることを示した.また時折ロボット同士で対話しながら,複数体のロボットが交互に人に話しかけ,同調的な曖昧応答を提示することによる対話システムを構築し,これを評価した.実験により,2体のロボットと交互に言語レベルの相互作用を体験する方が,相手(ロボット)の意図を意識した対話ができる(ロボットの心を感じることができる)ことを示した.これは言語レベルの同調による認知的一体化が持つコミュニケーションの円滑化の効果を示唆する結果であると考えられる. コミュニケーション療育への応用に関する研究では,発話するロボットがダイナミックに切り替わる複数ロボットによるコミュニケーションの支援・療育システム構築の第一歩として,遠隔操作ロボットを用いて,人とアンドロイドと交互に対話させたときのASD児の反応を,視線行動の観点から分析した.健常児は相手が人であるかアンドロイドであるかによらず,相手の目付近をよく注視したのに対し,ASD児は人の目付近の注視を避ける傾向があることを見出した.これは,視線を用いたコミュニケーション療育にロボットを応用することの有用性を示唆する結果であると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H26年度では,これまで考慮してきた身体的同調による認知的一体化がコミュニケーションに及ぼす効果の実装と検証を進めるとともに,さらにこのアイデアを言語的相互作用のレベルに拡張した研究を展開することができている.また,最終目標であるコミュニケーション支援のターゲットとして,コミュニケーション障害の一種である自閉症スペクトラム障害児を対象とした実験において,ロボットの有効性の一部を定量的に評価できた. 一方で,より人に密着したコミュニケーションの形態あるいはコミュニケーション支援のフィールドへの応用には,より静かで安全に関わることのできるロボットを用いることが望ましいが,年度途中に,そのようなロボットが次年度に手配できる目途がついたため,配分額の一部を繰り越し,評価実験の一部を次年度に回して実施することとした.
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今後の研究の推進方策 |
おおむね順調に研究は進んでいる.今後は,静音化され,安全に関わることのできるロボットを用いて,より高いレベルで,コミュニケーション支援の可能性を明らかにしていく.またそのようなロボットを自閉性スペクトラム障害児が通う病院,支援学校に導入し,臨床場面におけるコミュニケーション支援の可能性を評価していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
複数ロボットとのコミュニケーションによるコミュニケーション障害の対話支援研究に関して,発達障害を抱える青年に対する評価の研究が予想以上に進み,研究期間を1年延長することで,より低年齢の未就学児を対象とした評価の実施までも可能となった.これに伴い,青年に対する評価では問題にならなかった駆動時の騒音のレベルをさらに引き下げたロボットを使用しなければならなくなり,その完成を待つ必要があった.
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次年度使用額の使用計画 |
駆動時の騒音レベルの低いロボットの手配にあてる.またこれを用いて,コミュニケーションに障害を持つ自閉症児等の発達障害児童・青年のコミュニケーション療育およびスクリーニングへの応用を検討するための物品費,および実施の補助にあたるリサーチアシスタントの雇用経費に充てる.
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