本年度は、脳の構造的制約が導く脳活動や身体運動の特徴についてシミュレーション結果の解析を通じて明らかにした。本プロジェクトで提案している非線形振動子の複雑ネットワークと身体によるインタラクションからの多様な運動が創発されるモデルでは、身体運動の持続性と脳活動という側面から統計モデルに基づいて解析し、安定な運動ではネットワークが局所的なサブネットワークに分かれ独立して活動しているのに対して、不安定な運動ではネットワークが全体として活動していることがわかった。また、スパイキングニューラルネットワークを複雑ネットワークにより接続した研究では生成された信号の複雑さがネットワークの構成により異なっていることがわかった。この研究では、スモールワールドネットワークを構築するための Watts-Strogutzモデルを用いてパラメータを変化させることで円環状のレギュラーネットワークからスモールワールドネットワーク、ランダムネットワークまでを複数構築して比較した。ランダム入力を与えてSTDP(Spike-Timing-Dependent-Plasticity)則により自己組織化を行った上で、入力を切った後の自発活動を信号の複雑性を解析するためのMuti-scale Entropy(MSE)により解析したところ、レギュラーネットワークにおいて複雑性の低下が見られた。これは、大脳皮質のローカルな結合が多くグローバルな結合が少なく、MSEによる脳活動解析で複雑性が低下していると考えられる自閉症スペクトラム障害(ASD)の傾向と一致する結果であった。これはグローバルな構造に基づく自己組織化がミクロな構造と活動に影響を与える一例であり、今後のASDの理解を助けると考える。
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