研究課題
ヒト骨肉腫U2OS細胞と胚性血管平滑筋A7r5細胞を用いて張力ホメオスタシス機構と炎症促進シグナルの持続化の関係について調べた。まず細胞接着斑タンパク質の一つpaxillinのpY118における脱リン酸化状態が、細胞の張力と高い相関があることがわかった。この相関はマイクロパターニング技術を用いて内因性のmyosin II依存の張力を調節することによって確認された。ここで、マイクロパターン化された細胞の辺縁部分に沿った張力の勾配は有限要素解析を用いて調べ、paxillinのリン酸化は抗体を用いた染色強度から調べた。そこでpaxillinのリン酸化レベルを指標として細胞の張力を評価しながら、炎症を促進する因子であるNF-κBのリン酸化を観察した。細胞が張力ホメオスタシスを行うことができない状態をマイクロパターンによって人工的に作り、NF-κBを観察したが優位なリン酸化レベルの変化は認められなかった。一方、張力ホメオスタシスが達成できない場合には異常なラメリポディアの発生が見られたために、炎症シグナルに関連のあるRac1の特異的阻害を与えたところ、この異常なラメリポディアが抑えられた。つまり細胞が張力を一定値に保つことができない場合には、おそらくRhoAの活性化が抑えられるためにそれに相反する役割を果たすRac1が持続的に活性化されたと考えられる。張力ホメオスタシスを起こすことができない細胞におけるRac1の持続的な活性化は、最終的には炎症を促進するシグナル群の活性化につながると考え、現在さらなる検討を行っている。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、炎症を促進するシグナル分子の持続的な活性化が、細胞内の張力ホメオスタシスの喪失と相関があることを裏付けるデータが得られている。細胞内の張力を人工的に調節したり、観察する技術の開発も進んでおり、今後の研究の展開に期待をもっている。
これまでは細胞内の張力を簡便に観察することができなかったために、免疫染色法に基づいて個々の細胞について、時間をかけて調べる必要があった。しかしこれまでよりも簡便に細胞内張力を観察する技術が開発されつつあるので、今後はより網羅的な解析を行うことができる準備が整った。特に特定の分子群に着目して網羅的なノックダウンを行い、張力の発生に関わる分子のスクリーニング実験を行うことを検討している。これにより、張力の発生に直接関わるmyosin IIの直近の小数のシグナル分子に着目するだけでなく、より広範なシグナル分子を対象とした実験を行うことが可能となり、炎症促進につながる反応との関連もより詳しく迫ることができると期待している。
研究代表者は今年度に所属大学が変わった。それに伴う引っ越し作業と実験室の立ち上げのためにおよそ1ヶ月程度の遅れたが生じたために、次年度使用額が生じた。消耗品として利用する。これまで以上に広範にデータを取得できる新しい技術開発を行ったために、遅れていた実験についても速やかに遂行することができるために使用計画に特に変更はない。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (10件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
Biotechnology Letters
巻: 36 ページ: 507-513
10.1007/s10529-013-1391-3
巻: 36 ページ: 391-396
10.1007/s10529-013-1368-2
http://mbl.web.nitech.ac.jp/index.html