本研究では,細胞の力学応答機構を解明するといった観点から,まず細胞骨格と核膜,核膜とクロマチンとの間の機械的な結合力を定量化する手法を確立する.そして,細胞が自身の機能を大きく変化させる分化・脱分化の過程で,これらの力学的相互作用がどのように変化するのか,力学的側面ならびに生化学的側面から解析し,細胞の機能発現との関連性を明らかにすることを目的としている. 最終年度は,独自開発したコラーゲン基質配列技術を使って血管平滑筋細胞を対象に,実際の血管組織内に近い状態で細胞を配列させながら培養することに成功した.そしてこの環境下で細胞内のアクチン細胞骨格と核膜との結合状態と核内のクロマチンの凝集変化を詳しく解析した.生体内に近い状態でコラーゲン基質上に配列培養すると平滑筋分化が促進し細胞周期の停止と収縮性の向上がみられた.そしてアクチン細胞骨格と核膜との結合が強化されていくこと,それに伴い核が縮小しながら伸展した形態に変化し,核内クロマチンの凝集が促進されることが分かった.また,このような平滑筋分化は,生体内に近い繰返引張ひずみを負荷することで,さらに促進されることが示唆された.さらに,このような細胞骨格と核膜との結合の向上とクロマチンの凝集は,細胞の分化制御だけでなく,細胞の致命的な障害を抑制する効果などを有することが明らかになってきた.
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