研究概要 |
本課題は,最近大きな社会問題となっている熱中症や日常活動中の健康管理等に焦点を当て,深部体温(鼓膜温)・心拍(耳部心電図R波and/or耳部光電容積脈波)などを「耳介密閉型耳栓(イヤーピース)」から取得し,スマートフォンと連携させて「熱中症対策や自己健康管理」に利用でき,イヤホンとしても共用可能な「スマートイヤーモニター」の開発を目指した研究である。平成24年度は,主にイヤーピースから得られる生体情報の精査とスマートフォン用アプリケーションの開発を行った。以下にその具体的内容を列記する。 1)イヤーピース方式による鼓膜温計測の妥当性を胃腸温との比較計測により確認した。実験パラダイムは,温冷水浴負荷と運動負荷を利用した。鼓膜温計測は使用条件によって学術見解が様々であるが,本法による有用性を明らかにした(T. Yamakoshi et al., Aviat Space Environ Med, 2013)。 2)両耳による心電図計測の可能性を探索した。結果として,回路部の工夫によって計測自体は可能であったが,通常の四肢・胸部誘導の心電図計測に比べて信号レベルが低く,体動の発生によって大きな困難が発生した。従ってこの方法の導入は保留とした。 3)耳部における光電容積脈波の基礎検討を行った。最適な耳部計測位置(」. H. Lee et al., Physiol Meas, 2013)と最適な使用波長を実験的に明らかにした。この組み合わせによって本課題の目的を達成できる可能性が格段に高まった。また,血管緊張度も耳部から取得できることが判り(J. H. Lee et al., Physiol Meas, 2013),応用可能性が更に広がった。 4)スマートフォンのみ(iPhone内蔵のCCDカメラとLEDフラッシュを利用)で心血管情報を測ることが可能なアプリケーションを開発し,その計測値の妥当性を検証した(K. Matsumura & T. Yamakoshi, Behav Res Methods, 2013)。このソフト開発技術は,スマートイヤーモニター開発の基盤となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
簡便かつ正確に深部体温を計測する提案手法の妥当性を学術的に検証した。また,深部体温と同時に心血管指標を取得する方法の開発も推し進め,今後の当該研究発展に有意義な基礎知見を得ることができた。これらの研究成果は,海外の一流専門誌(Physiological Measurement誌. Behavior Research Methods誌. Aviation, Space, and Environmental Medicine誌)にも掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
まずは,残された検証実験(外乱評価実験)を実施する。その後,得られた知見に基づき,イヤーピースへ各種センサを組み込む方法を確立させる。その後,スマートフォンと連携させる方法(通信・信号処理・表示など)を検討し,専用のアプリケーションを作成する。本年度の目標は,実際にシステムを組み上げるところまでである。
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次年度の研究費の使用計画 |
繰り越し経費(平成24年度の残額)と本年度の経費を有効利用し,本システム専用のイヤーピースの試作開発,アプリケーションの試作開発に人件費を含め相当程度の開発費用を投入する。また,評価試験に関わる消耗品(PC周辺機器,生体計測用センサ,環境計測用センサなど),被験者謝礼,データ整理・分析に関わる人件費,材料加工費,学会参加,および論文投稿費などの計上を予定している。
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