研究概要 |
本研究の目的は,.人間が狭い空間(隙間)を通り抜ける行動に着目して,歩行中に身体と環境の空間関係が知覚され,その関係に基づき肩を回旋するなど,歩行が調節されるプロセスについて明らかにすることにある.本年度は,「歩行中に得られる多様な感覚情報の中に,身体と環境の空間関係を知覚する重要な情報が含まれている」という仮説の妥当性を検討した. 本年度の第1の成果は,隙間通過の際に体幹の回旋角度を調節するルールを同定したことにある.従来,体幹回旋角度は,隙間の幅と身体幅の相対値に基づき決定されると考えられてきた.これに対して本研究は,回旋角度の調整自体はあらゆる"身体+モノ"の条件において必要最小限の空間マージンを作り出せるように,回旋角度を調節していることが分かった.この結果から私たちの脳は,少なくとも安全な環境においては,エネルギー産生的に効率的な体幹回旋を意図していることが分かった.この成果は,PLOS Oneにて発表された. 第2の成果は,歩行中に得られる動的視覚情報(オプティックフロー)が,歩行中には有益に利用されるものの,静止した状況下での意識的な知覚判断には利用されないことを示したことにある.動的視覚情報には,身体と環境の関係を規定する豊富な情報があると考えられている.本研究はこの動的知覚情報が有益に利用されるのは,自らが空間を移動している場合のみであることを,4つの実験を通して明らかにした.この成果は今後国際歩行と姿勢制御学会にて発表するとともに,国際誌に投稿予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
歩行中に身体と環境の空間関係が知覚され,歩行が調節されるプロセスについて,2つの成果を見出せたことについては順調な進展と言える.ただし,次年度に動的視覚情報が意識的な知覚判断に及ぼす影響を脳科学的見地から検討予定だったが,本年度この点が否定されたため,若干の計画見直しが必要である.
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画に沿って,体幹回旋行動が隙間通過のどの程度前から開始されるのかについて詳細な検討を行う.一方,近赤外光脳機能イメージングを用いて,動的視覚情報が意識的な知覚判断に及ぼす影響を検討する計画については,若干の計画の見直しが必要であり,早急にその見直しを行う.
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