研究課題/領域番号 |
24680068
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
樋口 貴広 首都大学東京, 人間健康科学研究科, 准教授 (30433171)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 視覚運動制御 / 歩行 / 障害物回避 / 時間特性 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,人間が歩行中に得られる視覚情報を,どのように歩行の制御に利用しているのかを明らかにすることにある。本年度は以下のような成果を得た。 一般に,隙間の中心を正確に通り抜けようとしても,左右のいずれかに偏倚してしまう場合がある。本研究では,この偏倚現象について空間認知の問題が関与するのかについて検討した。特に本研究では,立位時(つまり歩行していない時)における偏倚現象との相関関係を検討することで,この偏倚現象が全般的な認知的問題か,もしくは歩行特有の問題かを検討した。実験の結果,対象者の利き眼によって結果が異なることがわかった。対象者の利き眼が右眼の場合,立位時と歩行時における隙間中心の同定に,有意な相関関係が認められた。これに対し,利き眼が左眼の場合,両者に有意な相関関係は認められなかった。以上のことから,左眼が利き眼である場合,その対側の右大脳半球の活動が,歩行特有の認知情報処理に関与している可能性が示唆された。 狭い隙間を通り抜ける行動について,一般高齢者を対象として実験を行った。65歳以上の高齢者20名(認知症の疑いのある高齢者は除外)を対象として,2つの実験を行った。その結果,少なくとも歩行機能が正常な高齢者の場合,隙間の大きさや身体特性に対して歩行を調整し,おおむね接触を回避できることが分かった。ただし,「隙間を通り抜ける際に,できるだけ体幹を回旋しない」という空間的な制約を与えた場合,たとえ歩行機能が正常であっても,接触頻度が若齢者よりも有意に高くなった。この結果から,高齢者はある程度空間的な安全マージンを確保できる状況においては,安全な行動が実現できる一方で,行動に対して空間的制約が加わった場合には,身体幅と隙間幅の関係に合わせた調節が難しいということが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
隙間の中心を同定するという課題を対象とすることで,少なくとも利き眼が左眼の場合,立位時と歩行時の空間認知特性が必ずしもオーバーラップしないことを明らかにできた。この成果は,本研究の仮説である「歩行中に動的に得られる空間情報が,安全な歩行の制御に寄与する」ということにつながる成果である。 これまで3年間の成果により,歩行中に獲得できる情報の重要性について複数の知見を得ることができた。また,そうした情報は隙間を通過する少なくとも2歩前には獲得できていることも明らかにできた。さらに,高齢者や脳卒中片麻痺者の隙間通過行動を測定することで,対象者が保有している歩行能力や空間認知能力についても明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度が本研究の最終年度となるために,これまで得られた成果をモデルとしてまとめる作業に力を注ぐ。また,継続中の課題として以下の問題を実験的に明らかにしていく。 1.三次元動作解析と視線行動を同期させることで,空間のどこに視線を向けながら歩行をしているのかについて,三次元的な情報を提供するシステムを構築する。 2.脳卒中片麻痺患者の隙間通過行動を詳細に検討する中で,障害物との接触や転倒に起因する要因を特定し,仮説検証型の実験を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
成果発表として計上していたよさんについて,人件費に転用する必要が生じたことにより,わずかな残額が発生した(16818円)。
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次年度使用額の使用計画 |
成果発表のための旅費に使用する予定
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